新入社員として入社して数カ月たった2010年初夏、宮崎駿さんのアトリエへ向かった。私は手に、発売されたばかりのiPadを持っていた。 アトリエのカウンターで、宮崎さんの隣に座る。いそいそとiPadを見せる私に、宮崎さんは問うた。「それで、何ができるんですか?」。 私は、YouTubeのアプリをタッチし、「たとえば、こんな風に、動画が見られるんですよ」と伝えた。 すると、間髪を入れずに、宮崎さんは言った。「あなたの言う『動画』とは、どういう意味ですか?」 「え?」。私には質問の意味が分からず、会話は止まり、沈黙が訪れた。 宮崎さんにとっての「動画」とは、「動画マン(アニメーションにおいて、原画と原画の間の連続する動きを作画するスタッフ)」という意味の「動画」だった。アニメーション監督である宮崎さんの「動画」と、YouTubeを見続けたことで大学を留年した私の「動画」とでは、言葉の意味が違った