「壁と卵」(原文は英語):村上春樹 今日、僕は小説家としてエルサレムに来た。小説家とは、うそをつくプロだ。 もちろん、小説家だけが嘘をつくわけではない。政治家が嘘をつくのは誰でも知っている。外交官や軍の人も、中古車のセールスマンや肉屋、そして建築業者のように、場合によっては嘘の一種を述べる。しかし、小説家の嘘は他の人たちの嘘とは違う。小説家は嘘をついても不道徳だと批判されることがない。実際、大きくて、上手で、巧妙な嘘であればあるほど、小説家は公衆や批評家たちに賞賛される。なぜだろうか? 僕の答えはこうだ。つまり、上手な嘘をつくことによって、言い換えれば、真実が浮き彫りになるような虚構を作り上げることによって、小説家は真実を新しい場所に持ち出し、新しい光で照らすことができる。大抵の場合、元の形から、そこに含まれる真実を把握したり、それを正しく表現したりするのはほぼ不可能である。そういうわけで