グラハム・ベル空白の12日間の謎―今明かされる電話誕生の秘話 [著]セス・シュルマン[掲載]2010年10月31日[評者]辻篤子(本社論説委員)■「歴史」は書き換えられるのか グラハム・ベルの電話の発明物語は人類史上に名高く、ベルは人類に大きな恩恵をもたらした偉人として知られる。 ところが、実は、他人の発明を盗んだのかもしれない。まさか? だれもがそう思う。 本書の著者も初めはそうだった。米マサチューセッツ工科大の研究所で1年間、科学技術史に関する書物の世界有数のコレクションを使って自由に研究する機会を与えられ、取材にも歩きながら調べるうちに疑いが確信に変わる。その過程をつづった本書は本格ミステリーさながらに、読者を引き込んでいく。 きっかけは、ベルの実験ノートに記された一枚の図だった。電話の基本的なアイデアを示したものだが、不思議なことに、12日間の空白の後に突然登場する。それこそ天才の
■見返り求めぬ研究者の努力 「より速く、より高く、より強く」がオリンピックの標語だとすると、宇宙論では「より微(かす)かな、より希(まれ)な、より捕捉困難な」信号をキャッチするという文句が標語となっている。まだ誰も踏み込んだことのない観測領域に進出し、新たな天体情報を得たいためである。そのために、装置を大型化・精密化し、自然環境の厳しい(それだけに人間の影響がない)場所に行き、微少な信号をひたすら待ち構えなければならない。天文学はただ夜空を見つめるだけの優雅な学問ではないのだ。 本書は、著者が宇宙観測の最前線に出かけ、研究者がどのような苦労の下で実験・観測を続けているかを追体験した体当たり報告記である。そこは、大望遠鏡を建設した標高5千メートルの高山、ニュートリノを捉(とら)える地下鉱山やバイカル湖の氷の下、反物質探索を行う寒気厳しい南極、3千もの電波望遠鏡を並べるための広大な砂漠など。い
2010年09月28日21:00 カテゴリ書評/画評/品評SciTech コスモロジストは(笑)う - 書評 - 宇宙は何でできているのか 幻冬舎小木田様より献本御礼。 宇宙は何でできているのか 村山斉 現時点における、今年のポピュラーサイエンス部門No.1。宇宙物理学はこの分野で最も競争が激しいのに、ここまで笑えてかつセンス・オブ・ワンダーを刺激するものは初めてかも。 少なくとも(笑)の登場回数は最多のはず。 「ヒトはどうして死ぬのか」といい、今年の幻冬舎新書は気でもふれたのかというぐらい、いい意味でらしくない。もっとも今年のクソ本No.1、「真の指導者とは」とか見ると別に「らしくない」というわけでもなく、宇宙物理学者なみに両極端を目指しているだけなのかもしれないが:-p なお、現在Amazonでは「一時的に在庫が切れて」いるが、一両日中には直るとの情報を得ている。 本書「宇宙は何ででき
2010年09月19日21:30 カテゴリ書評/画評/品評SciTech 単純な方程式の複雑な生い立ち - 書評 - E=mc2 早川書房富川様より献本御礼。 E=mc2 David Bodanis / 伊藤文英・ 高橋知子・ 吉田三知世訳 [原著:E=mc2] すでに相対論の本であればその質量で時空が歪むほど出ているが、この発想はなかった。 方程式の理解ではなく、方程式そのものを主人公に見立て、その生い立ちを追うというこの発想は。 本書「E=mc2」は、世界一有名なこの方程式そのものを理解するための一冊ではない。 目次 はじめに 第1部 誕生 1 一九〇五年、ベルン特許局 第2部 E=mc2の先祖 2 エネルギーのE 3 = (イコール) 4 質量(mass)のm 5 速度(celeritas)のc 6 2(二乗) 第3部 若かりし頃 7 アインシュタインとE=mc2 8 原子の内部へ
2010年09月05日18:00 カテゴリ書評/画評/品評SciTech 今、そこにある物理 - 書評 - 今この世界を生きているあなたのためのサイエンス 楽工社杉並様より献本御礼。 今この世界を生きているあなたのためのサイエンス Richard Muller / ,二階堂行彦訳 Physics for Future President 「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」邦題を見るといかにもポピュラーサイエンスの本で、それを期待して買うとかなり裏切られるだろう。本書の原題は"Physics for Future President"。「(米国)大統領のための物理」だけあって不都合な物理的真実もたくさん載っている。 だからこそ、目をそらせない。 人倫には逆らえても、物理には逆らえないのだから。 本書の「きなくささ」は、目次からだけでも伺い知る事ができる。 目次 Ⅰ巻 第一講
2010年08月15日17:45 カテゴリ書評/画評/品評Love 利他的遺伝子 - 書評 - ヒトはどうして死ぬのか 幻冬舎小木田様より献本御礼。 ヒトはどうして死ぬのか 田沼靖一 お盆に読む本として本書以上にふさわしい本はない。 死ぬのが怖い人は、ぜひ本書で知って欲しい。 我々には一人残らず「きさまは常に死んでいる」があてはまるのだということを。 本書「ヒトはどうして死ぬのか」のどうしては、「どのようにして」、howの意味であると同時に、「なぜ」whyの意味でもある。細胞死の研究者である著者は、そのことを通して死がいかに生にとって不可欠であるかを説く。 目次 まえがき 私がなぜ「死」の謎を追うのか 第1章 ある病理学者の発見 第2章 「死」から見る生物学 第3章 「死の科学」との出合い 第4章 アポトーシス研究を活かして、難病に挑む 第5章 ゲノム創薬最前線 第6章 「死の科学」が教え
2010年05月24日13:00 カテゴリ書評/画評/品評SciTech What science won't tell us - 書評 - サはサイエンスのサ 早川書房より献本御礼。 サはサイエンスのサ 鹿野司著 / とり・みき絵 献本いただいたのはずいぶんと前だが、在庫がすぐ切れていて書評を上げるタイミングを逸していたが、このたびやっと在庫が復活した。 「サイエンス・イリテレイト」な人のサイエンス・リテラシーを高める本は昨今少なくない。しかしリテラシーがある程度高まってから、「じゃあどうしよう」という疑問に応えてくれる本は実に少ない。本書はそんな数少ない一冊だ。 本書「サはサイエンスのサ」は、「S-Fマガジン」の同名の連載15年分を大幅改定してまとめた一冊。 目次 第1章 カラダを変えるサイエンス ブラジルから来た少年はクローン羊ドリーの夢を見るか 優生思想のまぼろし 変化と多様性 ク
→紀伊國屋書店で購入 「ライスプディングにジャムを混ぜちゃうと、元にもどせない理由」 竹内 薫(サイエンスライター) まず、読後感から言わせてもらうと、「ミドルワールドにかかわった科学者たちの悲喜こもごも」がものすごく面白かった。 「この本は、ヒトの髪の毛の太さの一〇〇分の一から一〇分の一の大きさをもったものが住む世界の物語である。『ミドルワールド』と私が呼ぶ世界」(p.24) ミドルワールドは、大きな石ころや人間や地球といった世界と、小さな原子や素粒子の世界との「中間世界」のことだ(科学者たちは、ミドルワールドではなく、「メゾスコピック系」という難しい言い方をするらしい)。 少々、狐につままれたような気分のまま読んでゆくと、ロバート・ブラウンという植物学者の伝記になる。やがて、ライスプディングにジャムを混ぜる実験の話が出てくる。うん? なんだ、コレ? たしかに、ライスプディングとジャムを
→紀伊國屋書店で購入 「寄生虫学者は「変人」か」 藤田紘一郎(感染免疫学者) 『自分の体で実験したい』は、危険も顧みず、科学のために自分の体で実験した科学者や医学者たちのノンフィクションである。本書の「おわりに」と巻末の年表では、私自身のサナダ虫の実験についても言及している。 私は一九九六年以来、サナダ虫を二〇年以上お腹に飼っている。初代の「サトミ」ちゃん、二代目「ヒロミ」ちゃんと飼い続けて、最後の「マサミ」ちゃんまで、計五代のサナダ虫を飼い続けた。五代目の「マサミ」ちゃんは残念ながら、昨年の冬死んでしまって、今、私のお腹のなかにはサナダ虫が棲んでいない。そして、私が飼い続けたサナダ虫、正式の名前は「日本海裂頭条虫」というが、このサナダ虫は日本ではほとんど見られなくなっている。 サナダ虫の寿命は約三年である。日本語で「虫がわく」という言葉があるが、普通では寄生虫が人体内で増えることはない。
・ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 「地球上に生命が誕生してから約20億年間、生物は死ななかった。ひたすら分裂し、増殖していたからだ。ではなぜ、いつから進化した生物は死ぬようになったのか?」。 高等生物は放っておくと寿命がきて自ら死んでしまう。遺伝子にプログラムされた細胞の死=「アポトーシス」の視点から、ヒトの死を考える。新書で一般向け読み物だが、科学から倫理・哲学的意味にまで踏み込む深い内容。 「細胞は、内外から得たさまざまな情報─周囲からの「あなたはもう不要ですよ」というシグナルや、「自分は異常をきたして有害な細胞になっている」というシグナル─を、総合的に判断して"自死装置"を発動するのです。」 ヒトの手も指の間の細胞がアポトーシスで死んでいくことで形成される。カエルやチョウぼ変態も不要になった細胞が死んでいくことで実現されている。「細胞を大めにつくって、不要な部分をアポトーシス
科学者への温かいまなざし 明らかにこれまでの理論と矛盾し、積み上げられてきた実験結果とも相入れない変則事象が1例だけ見つかったとする。そのような場合、科学者はどう考えるだろうか。何か誤認があるか、実験の手順が間違っているか、と考え無視するのが普通である。たった1例ではこれまでの枠組みを変更する必要性を認めないからだ。しかし、その変則事象にこだわり、従来の説の変更に敢然と挑戦する科学者もいる。科学のブレークスルーはここにあるとして。 本書は、そのような科学の謎めいた変則事象ばかりを集め、それに着目する科学者の意見や活動を追跡し、さてここに世紀を超える大発見があるのか、それとも単にババを掴(つか)んだにすぎないのか、を論じようとしたものである。 例えば、光速度や電荷の大きさなどの物理定数は常に一定で、時間的変化をしないと考えられている。しかし、遥か120億光年彼方(かなた)の天体の観測結果から
・数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ 18世紀中頃、ベルリン科学アカデミーの院長モーペルテュイは観察から 「自然の中に何らかの変化を引き起こすのに必要な作用の量は可能なかぎり小さい」 という原理を発見した。自然現象には無駄がない。最も単純な道を通って効果を生む。たとえば光は屈折させても点ABCの間の最短距離を進んでいくように見える。光は無駄な経路を避けて作用量を最小に節約しようと心がけているのだと結論した。世界は合理的に作られている。そこに世界の創造主としての神の叡智をみた。 我々が生きているこの世界は、ありえたかもしれない世界の中で、最も好ましい世界、最善世界である。ガリレオもライプニッツもこの世界は神によって創られたと信じていた。科学者の役割は神が創造をおこなうときに従ったルールを、人間が再発見することにほかならなかった。あらゆる自然法則を貫く最小作用の原理
・代替医療のトリック 現代のタブーに真っ向勝負。 『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』を著した現代最高の科学ライター サイモン・シンが、次はどんな定理に挑むかと思ったら、意表をついて「代替医療」を斬る本を出してきた。ドイツの代替医療研究の大学教授と組んでの共著。翻訳はサイモン・シンの名訳を生み続けてきた青木薫氏。 まだ「代替医療」という言葉が一般にわかりにくい気がするのだけれど、要は、鍼、ホメオパシー、カイロプラティック、ハーブ治療などを指す。代替医療のほとんどは科学的にはインチキで治療効果はまったくないという事実を科学的に明らかにした本だ。それらを職業や商売にしている人たち(国内でも何十万人もいるだろう)に死刑宣告をしたようなもので、かなりヤバイ本かもしれない。今後、論争が起きそうだ。 やり玉に挙げられるのは、ホメオパシー、鍼、カイロプラティック、ハーブ療法、アロマセ
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