■ドラえもんと寅さん─人間に愛情を持って描くということ─ 山田洋次 (映画監督) ドラえもんは、映画「男はつらいよ」の主人公・寅さんにとても似ているところがあって、私は大変親近感を持っています。 寅さんは、日本全国いたる所、北海道から沖縄まで自由自在に旅をしているかと思うと、突然故郷の柴又へ帰ってきたりする、じつに神出鬼没です。冬でも素足に雪駄ばき、四角いトランクをさげたおかしな身なり。お金はいつも財布に五百円ぐらいしか入っていない。それでも平気で長い旅をして、見知らぬお婆ちゃんと友だちになったり、子供と一日中たわむれたりするのです。 寅さんは、故郷に帰っても長滞在は決してしない。つまらないことで妹のさくらたちと喧嘩をすると、たちまちカバンを持って家出をするのです。普通、家出をするとなれば、カバンに洗面用具をつめたり、シャツやパンツをしまったりしなければならないのですが、映画の中の寅さんは