「もしノーベル歴史学賞が存在していたら、受賞していただろうと思う20世紀の歴史家は?」とアンケートをとったら、フェルナン・ブローデルの名が上位に入ることはまちがいないだろう。本書の原題は、直訳すると「ブローデルを読む」。ブローデルの没後、いわばその知的遺産の目録を作成すべく編まれたブローデル論の競演である。寄稿者には、歴史学のみならず、経済学、社会学、地理学といった隣接の各分野のフランスにおける大家7人(くわえてブローデルの所説から離陸して「世界システム分析」を提唱し、彼の遺産相続人のなかで最も「国際的」に有名となったアメリカの歴史社会学者ウォーラーステイン)が名を連ねている。 本書の各論者がくりかえし強調しているように、ブローデルの最大の遺産は、歴史学に、隣接の諸学問の知見を接続する大きな枠組みを敷き、ヒトとモノ、歴史と歴史以前、近代と前近代、国家と市場と社会といった区別立てで知を切り刻