『日本帝国と大韓民国に仕えた官僚の回想』(草思社。原著は1975年刊)を読んだ。首都大学東京の鄭大均教授の序文によれば、著者の任文恒(1907年-93年)は16歳で来日し、新聞配達、人力車夫、掃除夫などで生活と勉学の糧を得、また多くの日本人の善意にも支えられて東大法学部に進み、在学中の1934年に高文試験に合格した苦学の人だ。 拓務省から朝鮮総督府に出向して江原道鉱工部長で終戦を迎え、戦後は李承晩政権下で商工部次長や農林部長官を歴任した。が、任氏はその「職務を通して朝鮮人の利益拡大と人権向上に努めたものの、彼らからは支配者の走狗」と見做されたと述べる。同書は先の戦争前後の朝鮮半島で日本と韓国に仕えた官僚バウトクを主人公にしているが、紛れもない任氏の伝記だ。 任氏はバウトクが、北朝鮮人民軍が南を占領した1950年6月末から10月初めまでの3カ月間、人民軍とそのシンパに追われ、幾度も生命の危険