私がいま一番注目している日本の知識人は與那覇潤氏だ。同氏の博士論文を改稿して上梓した『翻訳の政治学 近代東アジア世界の形成と日琉関係の変容』(岩波書店、2009年)は、沖縄県の成立過程(琉球処分)に関する歴史に残る研究だ。100年後に琉球処分に関する研究論文をまとめる学者も参考文献表にこの本を必ず入れることになる。博士論文の結論部で、與那覇氏は、「中国化する世界」という作業仮説を提示している。優れた知識人は、学術論文で難解な術語を駆使し、緻密に展開した議論を、レベルを落とさずにわかりやすく言い換えることができる。『中国化する日本』は、最先端の歴史研究の成果を踏まえた上で、グローバリゼーションとどう対峙すべきかというきわめて実践的な問題を扱っている。與那覇氏は、グローバリゼーションの起源は中国の宋朝のときに成立したと考える。 〈宋朝時代の中国では、世界で最初に(皇帝以外の)身分制や世襲制が撤