9月29日から日付を越えて30日になり、更にいくらか時間がたったころ。何十畳はあろうかという控室の隅っこで、詰将棋の出し合い、解き合いが始まった。 自作を並べる藤井猛九段、最近出合った難問を出題する鈴木大介八段。僕も自作をいくつか出す。目の前の人たちが1分でも2分でも考えてくれるだけで、勝負が終わったあとの余人には想像もつかないような感情を、ほんの少しでも和らげることができたような気がした。 大きな勝負の結果は、当事者だけでなく様々な人に影響を与える。勝負している人、勝負したかった人、ごく身近な人、遠くても心を揺らした人。 午前3時過ぎに鈴木が自室に戻ったあとも、藤井はしばらく控室にいた。関係者に「来期も待っています」と声をかけられると、喜怒哀楽どれにも分類できないような、どれも含んでいるような表情で、もにょもにょと曖昧に返事をしていた。 翌朝、大浴場で羽生王座と顔を合わせた。あぐらで湯船