かつて台湾で軍事教練を行っていたという高齢の男は、B4の大きさの資料を手に、自らに言い聞かせるように、遠い目で過去の記憶をたどり始めた。 「私たちはね、蒋介石総統に、どうにか台湾の軍隊を再建してくれと頼まれたんですよ。日本のやり方が一番だ、自分は日本人を頼りにしている。総統は、そうおっしゃって、私たちを全面的に信用して下さったのです……」 言葉の端々には「誇り」の響きが漂った。男が持っていた資料の冒頭には、手書きの「盟約書」という文字が光っていた。 交わされた「盟約書」 「赤魔は、日を逐うて亜細亜大陸を風靡する」 連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)や日本共産党に発覚することを恐れながら、日本の旧帝国陸軍の幹部たちが決死の覚悟で署名した「盟約書」の冒頭部分は、現代に生きる私たちからすると、いささか滑稽に感じる大げさな言葉で始まっていた。 だが、当人たちは極めて真剣だった。中国大陸喪失の土壇