No.4993 (2020年01月04日発行) P.26 土岐祐一郎 (大阪大学消化器外科教授/第119回日本外科学会学術集会会頭) 登録日: 2020-01-02 最終更新日: 2019-12-20
読売千人計画叩きは頭脳流出を「抑止」? 読売新聞が今年の元旦以降「千人計画」を槍玉にあげる記事の掲載を続けるなか、私は繰り返しこれらの記事の問題点を指摘してきた。 例えば、3月末の記事「読売新聞「千人計画」特集が覆い隠す日本の基礎科学の危機」では、中国へ流出する日本人の大学研究者が増えている背景には、「高給引き抜きによる先端技術獲得の動き」というよりは、「中国の大学が近年研究レベルを大きく向上させる一方、日本では大学の研究環境の悪化が続き、基礎研究分野の人材が流出している」という事情があることを指摘した。 つまり、日本側が「技術流出」を警戒する一方、千人計画採択者を含め、中国の日本人研究者の多くは、そもそもそういった流出させる技術を持たない(技術者や工学研究者ではない)基礎科学の研究者が主体であり、この現象の実態は、中国に「引き抜かれている」(プルの要因)というよりは日本側が積極的に「追い
全羅南道で百姓をしていた文(有烈)さんが「日本は戦争に勝たんとならん。国のためだ」とトラックに乗せられ、人さらいのごとく連れ去られたのは昭和15(1940)年2月16日だった。 文さんにとって、この日こそ、あまりにも痛ましい運命の転換点だった。 結婚して4か月しか経っていない5つ年下の妻と妹の3人とも引き裂かれたのだ。 身体検査が終わり、連絡船に押し込まれ、同胞50人と着いたところは福岡県嘉穂郡庄内町の麻生赤坂炭鉱だった。 とくに忘れられないのは、そのころのひもじさ。はじめのころは産業戦士としてもてはやされ、飯はどんぶり盛り、イモの入った汁で、待遇はよいほうだった。 だが、戦局の悪雲が日本をおおいはじめるにつれて飯は7分から5分に、汁はすきとおって、自分の顔が映った。そのうえ労働は15時間。朝のうちに昼弁当までたべてしまい、入坑するときは空弁当をさげていった。 (宮田昭「友よ、筑豊の地底で
【沖縄戦:1945年7月5日】「退山する者は殺害すべし」─住民を“人間の楯”とした久米島の海軍鹿山隊と、島の少女を連れまわし逃亡を続けた鹿山正 鹿山による住民の脅迫 米軍が上陸した久米島では、住民は山の避難壕に避難していたが、そこは久米島に配備されていた海軍通信部隊(海軍鹿山隊)の拠点でもあった。『沖縄県史』各論編6の沖縄戦詳細年表によると、同隊の隊長である海軍兵曹長の鹿山正はこの日、住民に対し「退山する者は、米軍に通ずる者として殺害すべし」と脅迫した(ただし沖縄県史は『久米島の戦争』を典拠としてこの日に鹿山が住民を脅迫したと記すが、その『久米島の戦争』を見ると7月6日に鹿山が脅迫したとある。また以下に掲載する吉浜氏の戦時日記にも鹿山による脅迫は6日の出来事とある。このあたりは沖縄県史の間違いとも思われるが、差し当たり沖縄県史の記述に従い鹿山による脅迫は5日のこととして話をすすめる)。 な
白身魚やエビなどの水揚げをする漁師、ウィーリー・ローダーさん=英スコットランド北部フレーザバラで5月27日、横山三加子撮影 欧州連合(EU)離脱完了から半年がたった英国の漁業は、EU向けの出荷減少と、コロナ禍の二重の苦しみにあえいでいる。離脱前、英海域で操業するEU漁船の多さに不満を持ち、「海の主権を取り戻す」と離脱を強力に支持してきた英国の漁師たちは今、何を思うのか。英北部スコットランドの港町を訪ねた。 「離脱しても漁獲割り当てが増えるわけでもない。むしろ、ノルウェー海域に行けなくなった分、漁獲量は減ったよ」 5月末でも吹き付ける風が冷たく、厚手のコートが必要なほどのスコットランド北部の港町フレーザバラ。水揚げ中の漁船の船長、ウィーリー・ローダーさん(62)が、作業の手を止め、そう語った。 当初、EU離脱の「果実」とされたのが、外国との独自の漁業交渉権だった。だが、英国とノルウェーの交渉
【1】歪められた「朝鮮人虐殺」の史実 先行研究無視や学術的な不備が指摘されるラムザイヤー論文 加藤直樹 ノンフィクション作家 ハーバード大学ロースクールのジョン・マーク・ラムザイヤー教授をご存じだろうか。法律分野に属する事象に経済学的にアプローチする「法と経済学」という学問領域の研究者である。1954年生まれで、18歳まで日本に育った経歴をもち、日本の企業や政治経済などの研究で知られる。1990年には日本企業の法的行動様式を検証した著書でサントリー学芸賞を受賞。日本文化への理解促進に貢献したとして、2018年には旭日中綬章を受章した。 そのラムザイヤーが、今年に入ってから世界的な注目を集めている。最初は昨年末に書いた「慰安婦」問題の論文で、次いで、この数年の間に書いた被差別部落問題や沖縄問題などについての論文によってである。 多くの人がすでに様々に論じているこの話題について、さらに私まで発
4度目の勧告 2018年8月30日、人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会は、日本政府に対して条約の実施のための改善勧告を出した。 委員会による日本政府報告書の審査は8月16・17日に、ジュネーヴの国連人権高等弁務官事務所が入るパレ・ウィルソンの会議室で行われた。 日本政府報告書審査に向けて、NGOは「人種差別撤廃NGOネットワーク」という連絡組織を作り、共同でNGOレポートを委員会に提出し、審査当日には約30人のメンバーがジュネーヴに集まった(NGO活動については本誌・小森恵報告参照)。委員会の審査の様子は私のブログに現地レポートを詳しく紹介している(前田朗Blog「人種差別撤廃委員会・日本報告書審査」)。 委員会の勧告は多数あるが、その一部は次のようなものである。 直接差別も間接差別も禁止する包括的な人種差別禁止法の採択 パリ原則に従った広範な権限をもつ国内人権機関の設置 条約第4
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く