『ゼンデギ』とは耳慣れぬ言葉だが、ペルシア語でLifeを意味する。物語の主要舞台はイランだ。主人公がふたりいて、最初は別々の物語が交互に語られ、徐々によりあわさっていく。 ひとりめの主人公は、オーストラリア人ジャーナリストのマーティンだ。彼は政権が揺らぐイランを取材すべく現地へ赴任する。その際、自宅に保管していたLPコレクションをすべてをデジタル化して保存するが、再生してみるとノイズが入っていた。コンピュータ任せにしたせいで欠損が生じたのだ。冒頭のこのエピソードが作品全体のテーマを反映している。 マーティンはイランの女性と結婚し一人息子ジャヴィードを授かるが、息子が五歳のときに妻が亡くなりマーティン自身も難病を抱えてしまう。ほかに身よりのない息子の将来を案じたマーティンが考えたのは、自分の代わりの「導き手」をつくることだった。その足がかりとなるのがヴァーチャルリアリティ・システム〈ゼンデギ