田中優子の江戸から見ると：同性婚 | 毎日新聞

井原西鶴の「男色大鑑」にちょうどいまごろの季節の話がある。ノウゼンカズラの花が咲き乱れる庭に、夏菊も美しい。そこで行水をしている高齢の男性がいる。ここにひっそりと暮らすのは66歳と63歳の男性カップルだ。19歳と16歳の時に恋人になったが、一方に言い寄るしつこい男がいて、その男を討ち果たした後にずっと一緒に暮らしてきた。 江戸時代の武家社会ではこのように恋のトラブルが生じやすく、そういう理由で恋愛はご法度だったが、社会全体では普通のこととして受け入れられていた。なぜなら、同性愛そのものが社会を危機にさらすことはなく、むしろその美意識の高さが称賛されたからである。同性カップルは差別を受けず穏やかに暮らした。江戸時代は食料自給率100％で経済成長率も高かったが、同性愛を「生産性」と結びつけて非難することなど誰も考えな…