(歴史ライター:西股 総生) 甲府の地をとりわけ重視した秀吉 「甲府は盆地である。四辺、皆、山である」 甲府で新婚生活をスタートさせた太宰治は、同地を舞台にした短編小説『新樹の言葉』を、こんな一文で始めている。 「シルクハットを倒(さか)さまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば、間違いない」と。であるなら甲府城は、その小さい旗の掲揚台にたとえられようか。
古きよき音楽とそのファッションやカルチャーをコンテンポラリーなスタイルで提示する––––キティー・デイジー&ルイス 5年ぶりの来日公演(即ソールドアウト)、「朝霧JAM 2023」にも出演と、アルバム・デビューから15周年となる今年、嬉しいニュースが続いたロンドンの3ピース・バンド、キティー・デイジー&ルイス(以下、KD&L)。今回は、ロックンロール、ロカビリー、ブルース、ジャンプなどの古きよき音楽を独自に取り入れたヴィンテージ感たっぷりのサウンドと、それに歩調を合わせるようなユニークなファッションがトレードマークのこのバンドの15年を追ってみようと思う。 パーフェクトなデビュー作のときは全員がティーンだった KD&Lはノース・ロンドン出身のバンド。メンバーは長女のデイジー、次女のキティー、そして長男のルイスという3姉弟で、それぞれがマルチ・インストゥルメンタリストである。10代の前半から
2021年に刊行されるやいなや、NHKをはじめとするメディアや著名識者が絶賛、ベストセラーとなり、サントリー学芸賞を受賞した『土偶を読む』(竹倉史人著、晶文社)。土偶は人ではなく、植物をモチーフにしている、という新説を提示したこの本は、土偶解釈の大胆さやユニークさとともに、専門家や専門知に果敢に挑戦したことが高い評価につながった。考古学の専門家ではない竹倉氏が、考古学の権威と闘うというストーリーが、識者や読者の共感を得たのだ。 この本へのいわば“アンサー本”が、今年、専門家の立場から出た。縄文時代をテーマにした雑誌『縄文ZINE』の編集人・望月昭秀氏と9人の考古学研究者らによる『土偶を読むを読む』(文学通信)である。望月氏らは、竹倉説が「皆目見当違い」であることを最新の研究に基づいて論証したうえで、自由な発想は歓迎すべきものだが、専門知には専門知の役割があることを示す。 視野が狭く難しいと
本書は『土偶を読む』を丁寧に検証しながら、竹倉氏の自由な「発想」は批判されるものではないが、「検証」があまりに杜撰で、学問的には説として到底認められるようなものではないと結論づける。さらに、竹倉氏の本が、世に受け入れられていった経緯についても検証を重ねていく。 専門知識はあれど一般社会と乖離しがちな学術の世界。専門知識はなくとも影響力を持つ「識者」という存在。わかりやすい物語を欲するメディアと読者……。これらの交わり方によって、事実はときに大きく歪む。〈『土偶を読む』ブーム〉を超えて、我々は「複雑な知」とどう向き合うべきなのか──。望月氏に話を聞いた。 発想は批判されるものではないが、検証が杜撰だった ──『土偶を読む』刊行直後から、望月さんは、竹倉さんの説に疑義を呈していらっしゃいました。従来、土偶は、人間、主に女性をかたどったものだとされてきました。しかし『土偶を読む』で竹倉さんは、土
日本の土木は、本当に素晴らしい! 「魅せる土木」を提唱して執筆と講演を行っている、東京都市大学の吉川弘道名誉教授が、選りすぐりの写真やイラストで“土木の名場面”を綴った書籍『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』を刊行した。その中で取り上げている土木構造物のなかから、土木技術のすごさと美しさを実感できる例として、揚水発電所と余部鉄橋を2回に分けて紹介する。(JBpress) (吉川弘道:東京都市大学名誉教授) ※本稿は『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』(吉川弘道著、平凡社)より一部抜粋・再編集したものです。 水の位置エネルギーを利用して蓄電する 揚水発電(pumping-up hydraulicpower generation)は人類が発明した画期的な大規模蓄電施設である。 原理はシンプルだ。高低差をもつ上部と下部の2つの調整池を建設し、こ
日本の土木は、本当に素晴らしい! 「魅せる土木」を提唱して執筆と講演を行っている、東京都市大学の吉川弘道名誉教授が、選りすぐりの写真やイラストで“土木の名場面”を綴った書籍『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』を刊行した。その中で取り上げている土木構造物のなかから、土木技術のすごさと美しさを実感できる例として、余部鉄橋と揚水発電所を2回に分けて紹介する。(JBpress) (吉川弘道:東京都市大学名誉教授) ※本稿は『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』(吉川弘道著、平凡社)より一部抜粋・再編集したものです。 赤色の鉄橋からコンクリート橋へ架け替え 日本海に面した谷あいに突如として現れる余部(あまるべ)鉄橋。赤色の鉄橋が凜々しい往時の風景を懐かしむ鉄道ファンは多い。明治45年(1912年)に建設されたJR山陰本線余部鉄橋(兵庫県香美町)は、当
JBpressで掲載した人気記事から、もう一度読みたい記事を選びました。(初出:2023年5月28日)※内容は掲載当時のものです。 (牧村あきこ:土木フォトライター) 「魚道」(ぎょどう)という言葉を聞いたことがあるだろうか。 堰(せき)やダムなどで堰き止められた川を、魚たちが行き来きできるようにした専用の道を「魚道」という。 アユやヤマメなど主に産卵のために川をさかのぼる魚は、川の中に人が造った段差のある人工物があると、そこより上流に行くことができない。そんな困っている魚たちのために、 緩やかな傾斜の小さな水路を作り、そこを通って魚が上流に行けるようにする仕組みが魚道だ。 魚道は日本全国にあるが、その中でも最大規模と言えるものが東京の奥多摩にある。内部見学もできる白丸調整池ダム(白丸ダム)の魚道は、実用性とエンターテインメント性を兼ね備えた施設なのだ。 ※記事末に見学コースを撮した動画が
(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター) さる3月、米国ロチェスター大学のランガ・ディアス博士の研究グループが、室温で超伝導状態を実現したと発表しました。もしも本当ならば、産業に革命をもたらし、社会を変え、エネルギー問題も環境問題も片っ端から解決する大発見、人類の夢がついに実現です。 しかしこの報告を超伝導の専門家は手放しで喜んだわけではなく、業界の反応は複雑でした。なぜなら、ディアス博士が共著者になった論文がかつて、不自然なデータ処理を指摘されて、撤回されたことがあったからです。「今回ももしや・・・?」と疑う人や、ディアス博士の他の論文にも疑わしい点があると言う人もいました。 追試の結果も思わしくありませんでした。ディアス博士の報告した物質は超伝導状態を示さないという報告が相次ぎました。 しかしついに6月9日(協定世界時)、他の研究グループがディアス博士の実験の再現に成功したという報告
3月21日、キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と握手を交わす岸田文雄首相(提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ) (作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎) 岸田文雄首相がウクライナの首都キーウを訪れたのは、3月21日のことだった。これをメディアは「電撃訪問」と伝えているが、いったいこの訪問のどこが「電撃」であったり、「秘密裏」であったりするのか、首を傾げたくなるどころか、その報道姿勢はむしろ噴飯物だ。 ポーランドに駅になぜ日本のメディアが事前に待機できたのか 岸田首相は、訪問先のインドから民間のチャーター機でウクライナの隣国のポーランドのジェシュフの空港に入り、そこから国境に近いプシェミシル駅に車で移動すると、列車でウクライナに入った。米国のバイデン大統領が2月に訪問した時と同じ経路だったという。 ところが、NHKではこのプシェミシ
筆者と神田佐野文庫との関わり 日本の蘭学に多大な影響を与え、日本の近代化に貢献した医師で博物学者であるフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866)の書簡は、日本国内に6通が現存している。しかし、シーボルト事件(1828)による国外追放前に、しかも日本での具体的な活動(植物研究)について記されたものは、2014年12月に神田外語大学の「神田佐野文庫」(洋学文庫)で見つかった書簡が初めてである。 筆者は、神田外語大学の日本研究所の副所長として、同文庫の調査責任者を務めてきたが、筆者自身、今回の発見には大変な驚きを覚えた。書簡そのものが貴重であることはもちろんのこと、記されている内容が驚くべき新事実であり、極めて意義深いものであるからに他ならない。 ところで、本書簡が含まれていた神田佐野文庫とは、神田外語大学附属図書館が昭和62年(1987)に京都の書店・若林正治氏のコレクショ
「音楽の父」と呼ばれるバッハだが、それ以前にも優れた作曲家は存在する(写真:Picture Alliance/アフロ) (林田 直樹:音楽ジャーナリスト・評論家) 「最近のクラシック音楽って…何が一番面白いんですか?」という、あまりにもざっくりした質問をよく受ける。一言ではなかなか答えにくいのだが──おそらく一番大きな答えの一つが、バロック・オペラということになるかと思う。 話は筆者がクラシック音楽の取材の仕事を始めた1989年(平成元年)にさかのぼる。 当時はちょうど東西冷戦が終結しつつある頃で、クラシック音楽界にも大きな地殻変動が訪れていた。その象徴が、音楽界の帝王カラヤンと、バーンスタインの相次ぐ死であった。 二人の両巨頭を失って、次に音楽界がどういう方向に進むのか。しばらく混乱期が続く中で、次なる方向性がはっきり見えたのは1992年のことだったと記憶する。 この年には東京のクラシッ
古都にそびえたつ「嫌われもの」? 都市はその繁栄のシンボルとして、高く天を衝く塔を求める。そして現在、東京に東京タワーと東京スカイツリーという新旧二本の塔がそびえたつように、京都にもそのシンボルとなる新旧ふたつの塔が存在する。 まずはおよそ1200年の歴史を持つ世界遺産・東寺の五重塔、通称「東寺の塔」である。そしてもうひとつは京都の玄関口から古都にひときわ異彩を放つ塔、京都タワーである。 「京都の街は京都タワーから見るのが良い」 かつてはそんな物言いがあったと年長の友人に教わった。京都タワーからなら京都の街が一望できるからかと思いきや、そうではないらしい。そのココロは、「京都タワーから京都を眺めるのであれば、京都タワーが目に入らないから」だというのだ。 おもわず「そこまで!?」と驚いてしまうほどの盛大な嫌われっぷりである。しかし、京都タワーが開業した1964年当時、全国を巻き込んだ“炎上”
常に国内外の観光客が溢れかえっていた京都。日本随一の観光都市も新型コロナウィルスの影響を免れず、未曾有の危機にあります。先日『観光は滅びない 99.9%減からの復活が京都からはじまる』を出版、京都在住の社会学者・中井治郎さんがそんな京都の現状を踏まえ、これからの「京都らしさ」、「新しい観光」スタイルを展開。長く住んでいるからこそ知りえる京都のリアルな魅力にも迫ります。ご期待ください。 不思議の街に閉じ込められた社会学者 新型コロナ・ウイルスの猛威によって人間の様々な営みが影響を受けることになったが、なによりも徹底的に凍結させられたのは「移動」である。 加速するグローバリゼーションによって海外旅行が高嶺の花だった時代は過去のものとなり、2018年には世界の国際観光客数が14億人を超えた。多くの人々が国境を越え、海を越えて好きな場所に出かけ、人類はこれまでの歴史で誰も見たことがないほど移動の自
(篠原 信:農業研究者) 「基礎研究に力を入れる政策を」ということはノーベル賞受賞者も口をそろえて言っている。 (参考)『これ以上「基礎」研究を軽視すると日本の科学は「ネタ切れ」に』https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65508 では、基礎研究を支援するにはどうしたらよいのだろうか。もちろん基礎研究推進のため、巨額のプロジェクトが立ち上げられているのは承知している。しかし、研究者の多くが「そうじゃないんだな・・・」と感じ、SNSでも異論がよくみられる。おそらく、政治家や政策担当者は、基礎研究をどうすれば支援できるのか、いまひとつイメージできていないのかもしれない。 基礎研究の支援はどうするとよいのか、私の経験を交えつつ、2点提案したい。 70万円の予算で世界初の技術を開発 私は農業研究者としてこれまでに2つ、学会から注目される成果を世に送り出すことが
新しいソフトウェア開発方法論「アジャイル開発」の一手法である「スクラム」の源流は、日本発の論文にあった。その論文著者の一人、野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授、中小企業大学校総長)が語る「アジャイルの真髄」とは何か。(JBpress) 新しいソフトウェア開発手法として、さらに組織変革やビジネスの革新手法として注目を集めている「アジャイル」。「スクラム」はその中で最も普及している具体手法である。その「スクラム」提唱者の一人ジェフ・サザーランド氏が着想を得る原点となったのが、日本企業におけるイノベーションの成功要因を研究した日本発の論文なのだ。 サザーランド氏が、その論文を竹内弘高氏(現ハーバード・ビジネス・スクール教授)とともに執筆した野中郁次郎氏に実際に対面したのは、「スクラム」を提唱してから時間が経った2011年だった。サザーランド氏が着想を得た論文の中核部分は何か、またどのような経緯で対面
縄文時代に作られた土偶は、女性や妊婦をかたどったものだ、というのが多くの人の認識だろう。「そうではない」という驚きの新説を提唱したのが、人類学者の竹倉史人氏だ。では、土偶は何をかたどっているのか? その結論に至った過程と具体的な土偶の解読内容を前後編でお送りする。(JBpress) ※土偶(どぐう)とは:縄文時代に作られた素焼きの人形。1万年以上前から制作が始まり、2000年前に姿を消した。現在までに2万点近い土偶が発見されている。なお、埴輪(はにわ)は、古墳にならべるための土製の焼き物。4世紀から7世紀ごろに作られたもので、土偶とは時代が異なる。 (※)本稿は2021年4月に発行された『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』(竹倉史人著、晶文社)より一部抜粋・再編集したものです。 ついに土偶の正体を解明しました。 こういっても、多くの人は信じないだろう。というのも、明治時代に
2018年5月に国後島で撮影され、2019年に公開されたドキュメンタリーだ。メガホンを取ったのは、ベラルーシ出身で、現在はパリに住むウラジーミル・コズロフ氏。 国後島がテーマなのに、れっきとしたフランス映画である。モスクワでは現在「ARTDOCFEST」というラトビア発の国際ドキュメンタリー映画祭が行われており、本作はこの映画祭の枠内で2日間だけ上映された。 この映画が魅力的なのは、タブーと考えられてきたテーマに直球で切り込み、リアルな国後島の姿と、そこに生きている人々の生活を垣間見せてくれるからだ。 監督自らが国後島に住むロシア人たちと対話し、日本について質問を投げかける。 「日本人がいなくても良い生活をしている」と言う人もいれば、「ここには仕事がない、クリル発展計画には意味がない」とこぼし、日本と組んで雇用を創出すればいいと考える人もいる。 海洋汚染で海産物の質が落ちていることを憂慮し
ニッケイ新聞 2012年3月21日 私達が住む「ブラジル」が現在のような多文化が入りまじった形になったのは、どのような経緯からか。移民はその文化形成にどんな役割を果たしているのか。そして、ブラジル文化は世界にどのような影響を与えているのか。 座談会はこれらをテーマにして、ブラジル文化に詳しい岸和田仁(ひとし)さん、ポルトガルに駐在歴のある小林雅彦さん、モザンビークに3年いた中山雄亮さんの3人に参加してもらい、深沢正雪編集長が司会をして1月31日にニッケイ新聞社内で行なわれた。 ポルトガルのポ語と違いについての興味深い指摘から、イタリア移民が及ぼした食やノベーラへの影響、さらにアフリカのポルトガル語圏諸国の文化についてまで縦横無尽に話題は展開した。ここでは各人の役職とはいっさい関係なく、個人的な意見や体験、思いをざっくばらんに語ってもらった。(編集部) 第2回 独自性模索した20世紀初め な
政策決定者は完成症対策と経済活動の「両立」を唱えるが、その政策決定の裏に根拠があるかといえば明示的なものは何もない(写真:ZUMA Press/アフロ) 少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。 その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。 今回は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーを務め
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