安倍晋三首相は7年前、成長戦略で「国民の平均年収を10年で150万円増やす」と掲げた。経済政策は祖父・岸信介のライバルだった池田勇人・元首相の「所得倍増計画」を真似したのだ。その池田は東京五輪、首都高、新幹線など、派手な公共事業のイメージが強いが、そこにはある信念があった。政治ジャーナリスト・武冨薫氏がリポートする。(文中一部敬称略) * * * 所得倍増の華々しい成功はよく知られているが、この計画の中で、池田が「国家百年の計」ともいえる政策を実行していたことはあまり指摘されていない。いわば「学校倍増計画」である。日本経済史が専門の岡崎哲二・東京大学大学院教授が指摘する。 「池田の所得倍増計画で特徴的なのは、人的資本です。重化学工業の育成に重点を置き、そのための人材づくりを計画的に行なったのです。具体的には、高校増設にあたって工業高校に重点を置き、大学に対する補助金も、工学系に多く配分した