生活時間を取り戻せ 新年を迎えたばかりの早稲田大本部キャンパス(東京都新宿区)は、静まりかえっていた。9階の研究室から青く澄みわたる空が見えるが、浅倉むつ子さんの胸は晴れない。 安倍晋三政権が「女性活躍」を叫ぶ中、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)の自殺が「過労死」と労災認定された。日本労働法学会代表理事(2003~05年)とジェンダー法学会理事長(07~09年)を歴任した労働法学者は、言う。 「高橋さんは、男性社員と同じように長時間労働を強いられた末、精神的に追い詰められました。過労死は1980年代に社会問題化しますが、これまで抜本的な対策は取られませんでした。女性活躍と過労死がセットになってしまうのは安倍政権にとって痛手です。この過労自殺で、ようやく労働時間の上限規制の議論が進む現状は悲しい。払った犠牲が大きすぎます」。柔らかな声と対照的に、一語一語が重く響く。