総選挙という重大事態のなかで、憲法の教科書に出てくるような概念をあれこれ論ずるというのはどうなのか、とお思いの読者の皆さんも少なくないだろう。だが、今回も、憲法学と憲法研究者に対する執拗な難癖を行っている篠田英朗氏に対する批判を行う。前回は「9条加憲」の問題と、立憲主義の基本的な理解をめぐる問題だった。今回はより教科書的な議論であるが、引き続き徹底批判を継続する。 Ⅳ. 国家の三要素をめぐって 1 どこが「謎の和製ドイツ語概念」なのか 「芦部信喜『憲法』の冒頭部分を見てみよう。 一定の限定された地域(領土)を基礎として、その地域に定住する人間が、強制力を持つ統治権のもとに法的に組織されるようになった社会を国家と呼ぶ。したがって、領土と人と権力は、古くから国家の三要素と言われてきた。 実は、この芦部の基本書の冒頭に出てくる「統治権」や「国家の三要素」といった概念には、実定法上の裏付けがない。