──────────────────────────────────────── まともに生きようとするからうまく生きられないのか。うまく生きられないからまともに生きようとするのか。両者の循環を映画『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』に見る。 ──────────────────────────────────────── ■80年代前半の私は、人格改造セミナー(別名自己啓発セミナー)に入れ上げていた。セミナーの特徴は、内的帰属にあった。不幸だとしても、不幸の原因が環境(=外部)に存在するのでなく、それを不幸として体験させる境地(=内部)があるだけだ、とするのだ。 ■当時そこにいたのは高級官僚、カタカナ職業、大学院生などエリート(の卵)たちだった。時代は既に近代成熟期=後期近代。モノの豊かさが達成され、欠乏ゆえの上昇欲求はあり得ない。だから動機づけの枯渇が問題になり、自己推進力の調達が求