わたしが旅行誌の編集者だったころ。自分のやりたいことと読者が求めていることの違いで、悩むことが多かった。 頭の中の引き出しをひっくり返してどうにか作り上げた企画も、ほとんど差し戻されてしまう始末。ちぐはぐで、どうにもまとまらない。いつもこだわりが邪魔をしてしまっていた。 先輩からは、毎度こんなことを言われていた。 「お前が本当に面白いと思うものを、読者にきちんと伝わるように料理しろよ。それが仕事だろ」と。 くそう。 頭では分かっているものの、まったくラフと企画書に落とし込めなかった。 たとえば日帰り温泉の企画。わたしは温泉ライターの経験があり思い入れが強かった。すぐ源泉や泉質、共同浴場などディープな内容を入れ込んでしまう。 だが多くの読者にとって温泉を選ぶ基準は、絶景の露天だったり安く入浴できたり観光地が近かったりと、もっとライトなもの。当然、読者の選ぶ基準も理解できる。だから作ろうと思え