人はなぜ服を着るのか? シンプルなこの問いに対して、各ジャンルの専門家が縦横に思考をめぐらす特別企画(全3回)。 最終回は作家・町田康さんが登場! 夏目漱石、太宰治の服装論を超えて、町田さんがたどりついた答えとは? 提供:ユニクロ 服を着るのは、人のため? 人を外見で判断してはならない、という意見を聞いたことがあるがまことにもってその通りだと思う。 梳(くしけず)らず髭を生やかし、垢じみた寝間着にサンダル履きの親爺が毎朝、家の前を通り、言葉を交わすようになったが、見た目がみすぼらしいので侮ってタメ口をかまし、ときどきは頭をはたくなどしていたが、後日、その人が観音さんであることがわかって死ぬほど後悔する、なんて話が説話にあるし、それに準ずることは現実にもよくある。或いは逆に、いかにも銭を持っていそうな形(なり)をしているので信用して鞄を貸したら借りパクされた、或いはもう端的に、金を騙し取られ