ここ10年ほど、ミステリの元気がいい。テレビを見れば、ミステリ原作のアニメやドラマが放映され、映画でも「ホワイトアウト」や「バトルロワイアル」がヒットした。また小説の売り上げランキングにも、宮部みゆきや京極夏彦といった人気作家の名前がしばしば登場している。最近のミステリ界は、出版不況などどこ吹く風だ。90年代からいま現在に至るまで、日本はずっとミステリブームにあるといってもいい。 しかし、いかなブームとはいっても、一人の人間が読める量には限界がある。読んでも読んでも出版される新たなミステリを前にして、新鮮な驚きが味わえると歓迎する反面、息切れを感じてしまうのが正直なところではないだろうか。時には名探偵よろしくパイプをくゆらせ、ゆったりと謎解きを楽しみたいと思う読者も多いだろう。 このような要望に、青空文庫は完璧に応えてくれる。夏目漱石や芥川龍之介ら、文豪と呼ばれる作家たちの作品の他に、ミス