潜在能力アプローチによって社会的不平等の評価と解決に挑む刺激的考察。 Amartya Sen "Inequality Reexamined", 1992 アマルティア・セン『不平等の再検討』(池本幸生・野上裕生・佐藤仁訳、岩波書店、1999年) 紹介 【1】 本書は、1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが、正義(公正)をめぐるその考察を一般読者向けに簡単に要約したものである。翻訳にしてわずか200ページあまりの論考であるが、その着眼の鋭さと視野の広さは、本書の記述の易しさのために、かえって読者に強い印象を与える。ときとして意外なほど明快な断定がなされている箇所もあるが、原注などを丁寧に読み込んでいくと、その断定の背後にもセンの膨大な実証的研究が横たわっていることを窺うことができ、読者は深く納得させられるのである。 センが本書で扱っているのは、1970年代にロールズによっ