米国特許法改正、日本企業が留意すべきこと 異議申立制度の利用と、ディスカバリーによる特許権者側の作業負担 米国特許法改正法案が2011年9月に成立した。法改正の各項目の内容と解説についてはすでに日本でも関係各所から発表されている(関連資料1、2)。「先願主義への移行」が一つの大きな話題となる一方で、奈良先端科学技術大学院大学・客員准教授で米国特許事務所Posz Law Group所属の吉田哲氏は、「米国の先願主義移行の影響は、日本企業にとってさほど大きくないであろう。日本企業が留意すべきは、特許の有効性を判断する異議申立制度や優先審査制度ではないであろうか」と指摘する。同氏が今回の米国特許制度改革の注目点として挙げ、他社特許を排除するための規定である異議申立制度の概略と留意事項について解説する。また、それに関連する情報提供制度について、東京しらかば国際特許事務所・弁理士の庄司亮氏が解説す
米国特許法の歴史的な大改正が、2011年9月16日にオバマ米国大統領の署名により成立した。今回の目玉は、特許訴訟費用の増大の元凶とされた「先発明主義」から、国際的に主流である「先願主義」への大転換である。この改正が日本企業にどのような影響を与えるか、米国と日本の特許事情に詳しい有識者が議論した。 米MOTS LAW, PLLC 米国特許弁護士 Dr. Marvin Motsenbocker 氏 米MOTS LAW, PLLC 弁理士 大坂雅浩 氏 三好内外国特許事務所 所長・弁理士 伊藤正和 氏 三好内外国特許事務所 副所長・弁理士 高松俊雄 氏 司会:テクノアソシエーツ 日経BP知財Awareness編集長 朝倉博史 60年ぶりの歴史的大改正 朝倉 今回の米国特許法改正は約60年ぶりの大改正とされていますが、企業にとってはどのような意味を持つのでしょうか。 Mots 大枠で言う
米国連邦最高裁判所は6月28日、「Bilski事件」の判決を下した。Bilskiの特許出願は、特定の商品の価格変動に基づいて種々の取引行為を行う商取引の分野におけるリスクヘッジ方法に関するもので、今回の最高裁判決は、純粋なビジネス方法の特許性に関する判断指針として注目を集めていた。結果は、2008年10月の連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決を支持し、Bilskiのクレームは米国特許法101条の特許適格性を欠くとして棄却された。一方、CAFC判決で示された、「機械又は変換」テストが101条の特許適格性を判断する唯一の基準である点については否定。また、101条に規定する「方法」も、ビジネス方法というカテゴリ自体を排除しない見解を示した。 今回の判決について、過去のビジネス方法特許を巡る事件を踏まえ、三好内外国特許事務所の弁理士、高松俊雄氏が解説する。 1.ビジネス方法特許 1995年のMi
経済産業省は,所管する独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の特許流通促進事業を,平成22年度(2010年度)末に終了すると発表した。経産省は4月19日に「経済産業省所管独立行政法人の改革について」という文書を通して,所管する11機関の独立行政法人の事業見直し内容を発表した。その事業見直し結果の一つとして,特許流通促進事業を終了させると説明した。各事業見直しは,4月9日にまとめた「独立行政法人・公益法人の見直しの基本と3原則」に基づいて決めたという。 INPITによると,日本は特許出願件数が多い“特許出願大国”である。日本の企業や大学,個人が特許として保有する約93万件の中で,製品やサービスの実用化で利用されている特許は約31万件と,33%しか利用されていないのが実態だ。残りの67%(62万件)は未利用特許となっている。この62万件を保有する各企業や,大学,公的研究機関,個人は
独立行政法人科学技術振興機構(JST)の知的財産センターは,大学などが持つ特許の実施権を基礎研究に対して無償開放する「リサーチユース・パテントコモンズ」制度(仮称)を準備中だ。大学や企業などが持つ特許の中で,基礎研究に対して無償開放してもいい特許を選んでリスト化し,同リストをWebサイト「科学技術コモンズ」で公表する。通称“未利用”特許の利用価値を発掘するのが狙いだ。当該特許に関心を持つ企業などに,ある程度追加的な研究をしてもらい,製品・サービスなどの実用化に必要と判断した時には,その企業と実施権ライセンスなどの契約を結んでもらうなどのオープンイノベーションを促進する。 現在検討中の同制度は,大学や企業が無償開放していい特許を選択してリスト化して提供する。提供する特許の中は,数大学が連携して,ある“特許群”を設けたり,JSTがある戦略目標を設定し特定研究分野の“特許群”を設けるなどの提供
Charles R. Macedo Amster, Rothstein & Ebenstein, LLP,パートナー,ニューヨーク州弁護士 藤森涼惠 Amster, Rothstein & Ebenstein, LLP,ニューヨーク州弁護士 「i4i v. Microsoft」判決とは: ソフトウェア・コンサルティング会社であるカナダi4i, Inc.は1998年に登録された米国特許5,787,449を所有していた。この特許は電子文書の構造に関する情報の処理および保存に関する技術を権利化したものである。i4iはこの技術を米Microsoft Corp.の「Word」がカスタムXMLを含む文書でも使用できるよう機能拡張するアドオン・ソフトとして商品化した。 2003年以降のMicrosoft「Word」はXML編集機能を有していたが,2007年になってi4iはテキサス東部地裁におい
審査促進に取り組むUSPTOへの対策と留意事項(下) 「インタビューへの柔軟対応が,知財担当者のスキルの見せ場」 米IBMから新しい長官(Mr. David Kappos)を迎えた米国特許商標庁(United State Patent and Trademark Office: USPTO)が,審査促進のための新しい取り組みを発表している。今回の取り組みの中で,審査官は最初のオフィスアクションまでに多くの時間を使い,積極的にインタビューを行うことが推奨されており,日本企業にとっても今後審査官からインタビューを求められる頻度が高まる。米国の特許事務所Posz Law Groupに所属し,米国の知的財産制度,実務に詳しい吉田哲氏は,「これまでの書面だけの中間処理とは異なり,インタビューの有無,その際の特許性主張の仕方など,出願人の柔軟な対応が求められる。知財担当者のスキルの見せ場」と話す。
新たなUSPTOの取り組みついては,審査官の労働組合であるPatent Office Professional Associationのウェブサイトで公開されている(関連資料2)。ここで,留意すべきポイントは次の2点と考える。この取り組みの開始時期は不明だが,労使間の合意はすでになされており,その実行は確実といわれている。 (1)審査システムの改定〜Revisions to Count System 審査促進のために,審査官の査定システムを変更している(関連資料2・スライド5参照)。具体的に,最初のオフィスアクション(1st OA)までの査定ポイントを従来の1点から1.25点へ,RCE(Request for Continued Examination:継続審査請求)後のオフィスアクションについては,従来の1点から0.75点へ変更する。審査官は査定ポイントのノルマがあり,ポイントが賞与
この6月に著作権法の一部を改正する法律が公布,一部を除いて2010年1月から施行の予定である。文化庁は,“デジタル・コンテンツの流通を促進する”ことが今回の狙いの一つとしているが実態はどうなのか,改正の背景やそれが与える影響について,西村あさひ法律事務所 弁護士の櫻井由章氏に聞いた。 ――今回の著作権法改正(平成21年著作権法改正)の概要を教えてください。 著作権法をインターネットの時代に対応したものにしていこうとするための一つとして立案されたものとされています。今回の改正は三つの柱から成ります。(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置,(2)違法な著作物の流通を抑止するための措置,(3)障害者の情報利用の機会を確保するための措置,です。 著作権はインターネット,デジタル化技術がなかった時代に作られたものです。立法のときに想定していなかったコンテンツの流通・利
「日本独自のライセンシー保護法制や職務発明制度がグローバルなオープン・イノベーションの妨げになっている」。経済産業省・産業組織課長(前・技術振興課長)の奈須野太氏はこのように指摘する。日本がグローバルなオープン・イノベーションを展開していくには,まず法制度の国際調和が必要であると強調する。その上で,「ソフトIP」という考え方を通じて,審査の重複や翻訳コストの増大といった「特許爆発」問題の解決策に言及するなど,将来の特許制度見直しの方向性を見通す。 本稿は2009年10月17日に政策研究大学院大学で行われた奈須野氏の講演「知識と組織の法制度の未来」を,経済産業省・技術振興課長補佐(弁護士)の伊達智子氏が要約したものである。本稿中の提言は奈須野氏の個人的提言であり経済産業省として決定したものではない。 日本がグローバルなオープン・イノベーションを展開するには,法制度の国際調和が必要である。とこ
この1月に特許庁は50年ぶりの制度大改革を目指して,国内外の有識者を集めた「特許制度研究会」をスタートさせた。これまで既に7回の議論を終え,予定では9回の議論を経てとりまとめを行う予定と聞いている。 特許庁がホームページで公開するその議事録(要旨)を見ると,事務方から提出された資料とともに,時代の変化に合わせた「差止請求権の在り方」や「裁定実施権制度の在り方」をはじめとして,様々な角度から極めて専門的な議論が行われているようである。中長期的視点に立って,多くの専門家が制度の根本を議論する本研究会が,最終的にどのような成果が出されるのか大いに期待される。 一方,公開されている本研究会概要を見て残念な点を一つだけ挙げるとすれば,今回の議論の出発点,前提となる日本の課題・問題点が明確に提示されていないことだ。単に50年ぶりの大改革というアドバルーンと,ふわふわした現状分析だけで,一体,現在の
「技術分野や事業戦略により知的財産制度に対するニーズは異なる。多様なニーズに応えるため,知的財産制度にオプションを設けることができないだろうか」。経済産業省・産業組織課長(前・技術振興課長)の奈須野太氏はこのように述べる。同氏は,オプションとして差止請求権のない新たな特許制度をゼロベースで考え,現行特許制度の問題点を浮かび上がらせたいとする。 本稿は2009年10月17日に政策研究大学院大学で行われた奈須野氏の講演「知識と組織の法制度の未来」を,経済産業省・技術振興課長補佐(弁護士)の伊達智子氏が要約したものである。本稿中の提言は奈須野氏の個人的提言であり経済産業省として決定したものではない。 現行制度を前提とした見直しでは,グローバルなオープン・イノベーションに十分に対応できない。そこで,新たな特許制度をゼロベースで考えたい。 現行の特許制度だけでは,技術分野や事業戦略の違いによって異
「差止請求権や紛争解決の在り方を見直し,権利と事業活動の安定性を確保すべき」。経済産業省・産業組織課長(前・技術振興課長)の奈須野太氏はこのように指摘する。競争領域と協調領域の見極めた事業戦略が重要となる中,協調領域における権利の在り方や紛争解決の在り方,特許制度の見直しの方向について同氏が問題提起する。 本稿は2009年10月17日に政策研究大学院大学で行われた奈須野氏の講演「知識と組織の法制度の未来」を,経済産業省・技術振興課長補佐(弁護士)の伊達智子氏が要約したものである。本稿中の提言は奈須野氏の個人的提言であり経済産業省として決定したものではない。 差止請求権行使の適正化を図るため,特許法に,民法1条のような権利濫用禁止の規定を設けることを提案する。 差止請求権の行使が信義・衡平に反し,権利濫用にあたる場合には差止めができないものとし,無効理由を探さなくても差止めを回避できるよ
「特許の安定性が崩れ,権利が不安定化したと言わざるを得ない。いかなるものに,いつの時点で,どのように特許を認めるかは,すぐれて政策的判断である。行政庁が第一義的判断をすべき」。経済産業省・産業組織課長(前・技術振興課長)の奈須野太氏はこのように指摘する。侵害訴訟における権利無効判断の増加を懸念し,「差止請求権の適正化」や「対話・金銭による紛争解決スキーム」による権利の安定化を模索する。 本稿は2009年10月17日に政策研究大学院大学で行われた奈須野氏の講演「知識と組織の法制度の未来」を,経済産業省・技術振興課長補佐(弁護士)の伊達智子氏が要約したものである。本稿中の提言は奈須野氏の個人的提言であり経済産業省として決定したものではない。 平成12年のいわゆるキルビー判決(最三判平成12年4月11日)は,「特許に無効理由が存在することが明らか」で,「無効とされることが確実に予見される」場合
「排他権(差止め)を重視した現行制度を,権利の利活用を重視した柔軟な制度に見直すべき」。経済産業省・産業組織課長(前・技術振興課長)の奈須野太氏はこのように主張する。情報通信などの分野で差止めによる弊害が目立ち始めていることを受けて,「差止請求権の適正化」や「対話・金銭による紛争解決スキーム」などイノベーション促進に向けた特許制度の見直しを同氏は提案する。 本稿は2009年10月17日に政策研究大学院大学で行われた奈須野氏の講演「知識と組織の法制度の未来」を,経済産業省・技術振興課長補佐(弁護士)の伊達智子氏が要約したものである。本稿中の提言は奈須野氏の個人的提言であり経済産業省として決定したものではない。 技術が高度化・複雑化し,研究開発の組織化,コストの上昇,競争の激化,製品ライフサイクルの短縮化などがみられる。多数の技術を集めて製品を作るようになり,たった一つでも特許侵害があれば事
見直しの時期にきた米国知財マネジメント −保守的な米国代理人の存在理由と米国代理人への指示形態の改善点− 第4回 米国代理人への指示形態の改善 100年に1度といわれる世界的不況の中,日本企業の知財戦略も経済状況に応じた見直しが求められている。海外での知財戦略に注目すると,今後,確実に改善が必要とされる点の一つとして,弁護士や弁理士(代理人)の効果的な活用が挙げられる。特に,海外代理人の費用管理は,きわめて重要な課題である。一般的に日本企業は国内代理人への費用の支払いと比較して,海外代理人に対しては寛容な支払いを行ってきているといわれるからだ。 そこで,米国特許事務所に勤務し,米国で知的財産制度を研究する一方,米国代理人の費用削減,業務改善など,実務上の問題も研究している弁理士の吉田哲氏に“米国代理人の効果的な活用法”として,実務における業務改善のポイントについて寄稿してもらった。
見直しの時期にきた米国知財マネジメント −保守的な米国代理人の存在理由と米国代理人への指示形態の改善点− 第3回 保守的対応に対する日本側の留意事項 100年に1度といわれる世界的不況の中,日本企業の知財戦略も経済状況に応じた見直しが求められている。海外での知財戦略に注目すると,今後,確実に改善が必要とされる点の一つとして,弁護士や弁理士(代理人)の効果的な活用が挙げられる。特に,海外代理人の費用管理は,きわめて重要な課題である。一般的に日本企業は国内代理人への費用の支払いと比較して,海外代理人に対しては寛容な支払いを行ってきているといわれるからだ。 そこで,米国特許事務所に勤務し,米国で知的財産制度を研究する一方,米国代理人の費用削減,業務改善など,実務上の問題も研究している弁理士の吉田哲氏に“米国代理人の効果的な活用法”として,実務における業務改善のポイントについて寄稿してもら
見直しの時期にきた米国知財マネジメント −保守的な米国代理人の存在理由と米国代理人への指示形態の改善点− 第2回 保守的対応の理由と日本側の誤解 100年に1度といわれる世界的不況の中,日本企業の知財戦略も経済状況に応じた見直しが求められている。海外での知財戦略に注目すると,今後,確実に改善が必要とされる点の一つとして,弁護士や弁理士(代理人)の効果的な活用が挙げられる。特に,海外代理人の費用管理は,きわめて重要な課題である。一般的に日本企業は国内代理人への費用の支払いと比較して,海外代理人に対しては寛容な支払いを行ってきているといわれるからだ。 そこで,米国特許事務所に勤務し,米国で知的財産制度を研究する一方,米国代理人の費用削減,業務改善など,実務上の問題も研究している弁理士の吉田哲氏に“米国代理人の効果的な活用法”として,実務における業務改善のポイントについて寄稿してもらった
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