一年間、単行本化に向け努力した新著が、ようやく上梓の運びとなりました。 学生時代から1960年代ぐらいまで、同好者が多かったせいもあり、私のミステリ読書は相当量にのぼるものでした。歴史的には戦後ミステリの疾風怒濤時代(再生~発展期)で、ハードボイルドの導入、社会派ミステリの勃興をはじめとする興味深い動きも多々ありました。 その一端は『戦後創成期ミステリ日記』(松籟社、2006)に記した通りですが、2010年から約2年間「ミステリマガジン」に連載した「幻島はるかなり」は、もう少し当時の世相風俗や学生気質とオーバーラップするような視点から、出版や映画の事情、書店の状況をはじめ、私個人の環境(家庭・学校)などにもふれたクロニクルとなるよう工夫したものです。 もとより、単なる懐かしのメロディーではありません。戦前から戦後にかけての回想で、ミステリが戦時の抑圧からの解放手段としてあり得たこと、戦後十