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ブックマーク / book.asahi.com (99)

  • 「洞窟ばか」書評 底もゴールもない未知への挑戦|好書好日

    洞窟ばか―すきあらば、前人未踏の洞窟探検 [著]吉田勝次 運命の力が作用して、なるべくして洞窟探検家になった「俺」は高校を辞めるまでは無謀なアウトロー的人間であり、直感に従った行動で危険な目にも遭うが、彼を導くことになる運命は時に試練を与えながら彼の肉体と精神を強固なものに鍛え上げ、洞窟探検家としての不屈の人格を自力と他力の両輪に噛(か)み合わせながら、未知の驚異の世界の入り口へと読者を誘う。 その探検の過程にはハラハラドキドキ。書の描写がコントロールされた感情に裏付けされているように、洞窟内での行動は常に冷静さが求められる。 彼の人生は一見、衝動的で向こう見ずに思えるが、実は高所恐怖症で闇を恐れる。その性格は洞窟探検家に向いていないように思えるのだが、だからこそ、未踏の未知の風景を現実の領域に取り込み、とんでもない危険に挑戦してしまうものの、感覚と理性のバランスよく常に無事に帰還するの

    「洞窟ばか」書評 底もゴールもない未知への挑戦|好書好日
  • 光浦靖子さん「50歳になりまして」インタビュー コロナでも、アラフィフでも、それでも留学に行きたい理由|好書好日

    光浦靖子(みつうら・やすこ) 1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。バラエティ番組「めちゃ2イケてるッ!」(フジテレビ系)のレギュラーなどで活躍。また、手芸作家・文筆家としても活動し、著書に『靖子の夢』(スイッチパブリッシング)、『傷なめクロニクル』(講談社)など。 コロナで消えたカナダ留学プラン ――昨年春、コロナ禍で留学を断念し、「私は家なき子の仕事なき子」になったという、光浦さん。妹さん家族の家に2カ月半、居候していたそうですね。そもそも、なぜカナダへ留学しようとしたのですか。アメリカでも、イギリスでもなく。 お友達がカナダで商売しようとしていて、「案内するよ」って言われてバンクーバーに遊びに行ったんです。その日の夜、ホテルのエレベーター前で、北斗晶さん・佐々木健介さんのご夫婦にばったり会いました。「きゃー! 北斗さーん!」「ええ! 光浦ちゃん?」

    光浦靖子さん「50歳になりまして」インタビュー コロナでも、アラフィフでも、それでも留学に行きたい理由|好書好日
  • 「それでもイギリス人は犬が好き」書評 残虐な娯楽の反動で動物愛護|好書好日

    それでもイギリス人は犬が好き―女王陛下からならず者まで [著]飯田操 非常にユニークな「犬の」だ。冒頭で、2003年の暮れ、エリザベス女王の愛犬がアン王女に飼われていたブルテリアに咬(か)まれて深手を負い、安楽死となった話が紹介される。以降、各単元の枕には犬への虐待行為や悲劇が語られ、犬好きで動物愛護の先進国とされたイギリスのイメージを根底から覆す。 実際、歴史を繙(ひもと)けば、イギリスは決して犬たちの楽園ではなかった。この国では17世紀ごろまで動物いじめを娯楽にする風俗があり、熊や牛に犬をけしかけて楽しむ「熊攻め」や「牛攻め」が行われていた。ブルドッグという品種が牛攻め用に改良されたというように。 また猟犬では、匂いでなく目視によって獲物を追いかける快速犬グレイハウンドやキツネ狩りに適したフォックスハウンドなども改良され、貴族は猟犬が獲物を攻める光景を馬上から見て楽しんだ。来はこれ

    「それでもイギリス人は犬が好き」書評 残虐な娯楽の反動で動物愛護|好書好日
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2021/07/26
    犬嫌いのaohi君に読ませたい。
  • 「ミシンと日本の近代」書評 小さなモノに光、大きな歴史照射|好書好日

    ミシンと日の近代―消費者の創出 [著]アンドルー・ゴードン [訳]大島かおり 米国の「知日派」というと、最近は外交・安全保障の専門家のみ注目されがちだが、著者は歴史研究における筆頭的存在だ。 ある日、彼は、ふと1950年代の日の既婚女性が毎日2時間以上も裁縫に費やしていた事実を知り驚愕(きょうがく)する。それが今回の知的探究の出発点となった。 ふつうの日家庭に入った最初のミシンはジョン万次郎が母親へ贈ったもの。シューイングマシネ(縫道具)がマシネと略され、さらに2音節に縮まって「ミシン」となった。 その出現は〈洋裁〉と〈和裁〉という新語を生み、キモノを〈洋服〉に対する〈和服〉とし、〈日〉と〈西洋〉が対峙(たいじ)する独特の世界観を固着化した。 とりわけ「世界初の成功した多国籍企業」と称される米シンガー社の家庭用ミシンは10年代までに日でも無敵の存在となった。それはまた「セールスマ

    「ミシンと日本の近代」書評 小さなモノに光、大きな歴史照射|好書好日
  • 「原子力の人類学」書評 世界の構造をエセーの文体で|好書好日

    原子力の人類学 フクシマ、ラ・アーグ、セラフィールド 著者:内山田 康 出版社:青土社 ジャンル:社会・時事 原子力の人類学 フクシマ、ラ・アーグ、セラフィールド [著]内山田康 筆者は社会人類学者である。がしかし、書は単純には学問と言えない文体で語られる。エセーと呼ぶのが最も適当であろうが、それは起源にモンテーニュを仰ぐ「随筆」の形式だ。 テーマは一貫して原子力である。筆者はその力の及び方を知るために仏ラ・アーグ、英国セラフィールド、米国ニューメキシコ、福島の浜通りを旅してゆく。 日の原子力産業がどの国のモデルを利用しているか、特にまったく同じ手法で土地が奪われ、権力によって馴致されるようになるかの事実には背筋が凍る。 我々は愚かなほどの物真似によって支配されてきたのに過ぎない。反省の契機もない終末的状況だ。 筆者はそうした世界の構造をあくまで随筆のように書く。資の動き、暴力の魔、

    「原子力の人類学」書評 世界の構造をエセーの文体で|好書好日
  • 「サルなりに思い出す事など」書評 アフリカとの裸のつきあい|好書好日

    サルなりに思い出す事など 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々 著者:ロバート・M.サポルスキー 出版社:みすず書房 ジャンル:自然科学・環境 サルなりに思い出す事など 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々 [著]ロバート・M・サポルスキー ケニヤの森で20年以上にわたりヒヒの群れを観察した神経科学者の回想録だ。裏表紙にある「抱腹絶倒のノンフィクション」という謳(うた)い文句は看板倒れではない。ニヤニヤ笑いが込み上げるという点では近年屈指のだった。 まずヒヒの研究を開始した理由が振るっている。著者の研究はストレスが人間の身体にどんな悪影響を及ぼすか。その調査にヒヒを選んだのだが、なぜヒヒかというと、彼らは1日4時間しか狩りをせず、あとはお互いを精神的に煩わせることに使っているからだという。つまりそこは人間と同じ、というわけだ。 ヒヒに旧約聖書由来の名前をつけて諧謔(かいぎゃく)的に語

    「サルなりに思い出す事など」書評 アフリカとの裸のつきあい|好書好日
  • 温暖化危機、高校生に「考え、行動を」 「オリジン・ストーリー」の歴史家・デイヴィッド・クリスチャンさん |好書好日

    HOME イベント 温暖化危機、高校生に「考え、行動を」 「オリジン・ストーリー」の歴史家・デイヴィッド・クリスチャンさん 宇宙や地球の成り立ちから人類の歴史まで約138億年の出来事を扱う「ビッグヒストリー」を唱える歴史家、デイヴィッド・クリスチャンさん(73)が来日した。高校で特別授業を開き、地球温暖化の危機が何をもたらし、どう行動すべきか、次世代を担う若者たちに熱く語りかけた。 クリスチャンさんは米国生まれ。現在は豪マッコーリー大卓越教授。宇宙創成や生命誕生から現代文明のゆくえまで、自然科学と人文科学の様々な研究手法を用いて総合的に解明する「ビッグヒストリー」を提唱。日語版『オリジン・ストーリー』(筑摩書房)が刊行された。 特別授業は、神奈川県のアレセイア湘南高校で1年生の生徒約30人に行った。宇宙が生まれ、太陽系に生命が誕生する過程をたどり、地球上が「なぜ生命にとってちょうどいい温

    温暖化危機、高校生に「考え、行動を」 「オリジン・ストーリー」の歴史家・デイヴィッド・クリスチャンさん |好書好日
  • 進化した仏像の知識、アップデートのススメ 『新版仏像 日本仏像史講義』山本勉さんに聞く|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 書籍情報はこちら 表紙の仏像はお気に入りの写真 ――旧版から7年、今回は新版として出版されました 表紙は、旧版と同じ菩薩立像(東京国立博物館)で、私がとても気に入っている写真です。宝冠の横から細長い飾り(冠繒〔かんぞう〕)が垂れ下がっています。造られたときからの飾りなのですが、実はけっこうな重さがあり危険なので、展示には使えないんです。ある時、倉から発見されたんです。くねくね曲がっていますが、金属なので実際は曲がらないためつけるのが面倒なんですよね(笑)。 先がクルッと巻いているのが、とても良いイメージなので注目してみてください。実は、私の『仏像のひみつ』(朝日出版社)の表紙イラストのモデルにもなっています。 ――サブタイトルの「日仏像史講義」としたのはなぜでしょうか 元々は10冊のシリーズタイトルとして考えていましたが、それが6冊の構想になり、最終的にはこの

    進化した仏像の知識、アップデートのススメ 『新版仏像 日本仏像史講義』山本勉さんに聞く|じんぶん堂
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2020/09/11
    仏像と言えば、みうらじゅんのコメントとらんとダメやろ。
  • 「専門知は、もういらないのか」書評 「知識」の死は政治の質を変える|好書好日

    専門知は、もういらないのか 無知礼賛と民主主義 著者:トム・ニコルズ 出版社:みすず書房 ジャンル:社会・文化 専門知は、もういらないのか 無知礼賛と民主主義 [著]トム・ニコルズ 今どきの若者は、という若者論はいつの世にもある。論者はたいていは世知たけた大人である。しかしその大人もかつては子供だったわけで、彼らの若者批判は天に唾する行為のようにも思われる。実社会の経験に乏しい若者は頭でっかちで、背伸びもするだろう。背伸びしなければ人間は身の丈を伸ばしていくことができない。 書が問題にするのは若者が背伸びをすることではない、背伸びをしなくなったことである。哲学書を片手に生かじりの議論を吹きかける学生はもはや絶滅危惧種である。そんな学生がいたら、「意識高い系」と揶揄されるのが落ちだろう。 アメリカの大学の現状は書第3章に描かれている。専門的知識を嫌悪する反知性主義の蔓延、学生による商品レ

    「専門知は、もういらないのか」書評 「知識」の死は政治の質を変える|好書好日
  • ふしみみさをさんの翻訳絵本「うんちっち」 下品と敬遠しないで。大人も子どもも心の底から笑える日常を|好書好日

    伏見操(ふしみ・みさを)翻訳者 1970年、埼玉県生まれ。上智大学文学部仏文科卒。洋書絵卸会社、ラジオ番組制作会社勤務を経て、フランス語、英語を中心に子どものの翻訳や紹介につとめている。主な訳書に『スキャリーおじさんのとってもたのしいえいごえじてん』(BL出版)、『瓶に入れた手紙』(文研出版)、『マルラゲットとオオカミ』(徳間書店)、『なつのゆきだるま』『トラのじゅうたんになりたかったトラ』(岩波書店)など多数。 大人も子どもも思わず笑っちゃう! ストレートな楽しさ ――伏見操さんの翻訳する絵は、いつもユーモアにあふれている。ただひとつの言葉しか言わなくなってしまったうさぎの子、シモンの話もそのひとつ。その言葉とは「うんちっち」。ご飯をべても、お風呂に入っても、変わらず「うんちっち」。気なのか、いたずらなのか、シモンにしかわからないこのルール。そんなシモンがおおかみにべられたら

    ふしみみさをさんの翻訳絵本「うんちっち」 下品と敬遠しないで。大人も子どもも心の底から笑える日常を|好書好日
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2020/05/31
    おすすめされるのは、オラがヘンタイなのを見通してる?
  • 野崎まど「タイタン」 「仕事とは何か」、AIが問う|好書好日

    人類社会のあらゆる領域が人工知能によって運営される2205年。世界に12基ある巨大AI施設「知能拠点」=タイタンの働きにより、人類は労働から解放されていた。だが心理学を「趣味」とする内匠成果(ないしょうせいか)は、ある日タイタンを管理する知能拠点管理局への「就業」を余儀なくされる。彼女の業務は、謎の機能低下を起こした2基目のタイタン――個体名「コイオス」を「カウンセリング」し、その理由を探ること。コイオスと対話した内匠は「彼」が仕事の不調による心の病……うつ病の症状にあると診断する。 作家・野崎まどは2009年に第16回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞した『[映]アムリタ』でデビュー。映画撮影を通じ、恐るべき天才に翻弄(ほんろう)される青年たちを描いた異形の青春ミステリーである同作以降、異色作を次々発表。予測不能の展開や実験的文体を通じて読者を大いに驚かせ、あるいは笑わせてきた。近

    野崎まど「タイタン」 「仕事とは何か」、AIが問う|好書好日
  • ソ連への萌え止まず『いまさらですがソ連邦』刊行 不思議な超大国をまるごと紹介|好書好日

    速水螺旋人(はやみ・らせんじん)漫画家 1971年生まれ。代表作は「ずれ戦線―魔女ワーシェンカの戦争-」(徳間書店、全2巻)、「大砲とスタンプ」(講談社、既刊7巻、連載中)など。 凄まじい矛盾と両極端を抱えた国 ――今回、書のテキストを担当した津久田重吾さんは、元ソ連軍人のキャラクターも活躍する漫画BLACK LAGOON」(著:広江礼威、発行:小学館)など漫画やアニメ、映画でミリタリーの考証や監修を手掛けてきました。イラストと手書きの文章を担当した速水螺旋人さんもソ連軍やスラブ地域の伝承をモチーフにした漫画を多く描いています。長年ソ連に萌えまくって情報発信してきた2人ですが、なぜはまっていったのですか。 津久田 そもそも僕のソ連趣味は崩壊前から約30年間続いてます。速水さんも昔からコミックマーケットでソ連のミリタリーを扱うサークルが出していた会報を買っていました。つまらない国なんて

    ソ連への萌え止まず『いまさらですがソ連邦』刊行 不思議な超大国をまるごと紹介|好書好日
  • 書評・最新書評 : 万物の尺度を求めて-メートル法を定めた子午線大計測 [著]ケン・オールダー | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

  • 絶滅危惧種をめぐる珍道中記 「これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」|好書好日

    これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景 著者:ダグラス・アダムス 出版社:みすず書房 ジャンル:自然科学・環境 これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景 [著]ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン 書は、絶滅危惧種をめぐる珍道中記である。 スラプスティックSFの一大傑作『銀河ヒッチハイク・ガイド』の著者であるダグラス・アダムスが、動物学者マーク・カーワディンとともに世界中の絶滅危惧種を探訪する。原著の出版は一九九〇年、英米では広く読まれたこの名著が今まで翻訳されなかったのは不可解なことだ。「SF作家」の肩書が邪魔したわけではないと信じたいのだが。 とりあげられる動物はアイアイ(マダガスカル)、コモドオオトカゲ(インドネシア)、マウンテンゴリラとキタシロサイ(ザイール=現コンゴ民主共和国)、ヨウスコウカワイルカ(中国)、ロドリゲスオオコウモリとモーリシャスの固有種の鳥

    絶滅危惧種をめぐる珍道中記 「これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」|好書好日
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2017/12/18
    今読んでる本でイチ押し。
  • 「曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民」書評 知識が生きる力に 福島との共通点も|好書好日

    曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民 著者:アドリアナ・ペトリーナ 出版社:人文書院 ジャンル:社会・時事・政治・行政 曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民 [著]アドリアナ・ペトリーナ ぼくたちが大規模な災害の被害者となったとき、生活再建の拠(よ)り所(どころ)になる/なれるのは、何だろう。国か自治体か、地域の共同体か専門家か、はたまた事故の責任者か自分自身か。 1986年、旧ソ連でチェルノブイリ原発が爆発し、人類史上最悪規模の放射能汚染事故が起こった。書は、この事故の後これらの救済システムがどう機能しなかったのかを、現地の人々への長期参与観察と聞き取り調査をもとに丁寧に描き出した民族誌(エスノグラフィ)である。著者はアメリカの人類学者だが、ウクライナ語にも堪能で、現地生活者の細かい心の襞(ひだ)まですくい取ることに成功している。 事故後、ソ連内外から専門家が多数訪れ、住民

    「曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民」書評 知識が生きる力に 福島との共通点も|好書好日
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2017/07/20
    “知識が生きる力に”
  • 書評・最新書評 : 殺生と戦争の民俗学―柳田國男と千葉徳爾 [著]大塚英志 - 柄谷行人(哲学者) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■「理科」と「経世済民」で照らす 著者大塚英志はアニメやサブカルチャー論で知られているが、大学では民俗学を千葉徳爾の下で学び、その後もその問題を考えてきた人である。千葉は柳田国男の弟子であった。著者にとって、柳田について考えることと、千葉について考えることは切り離せない。そして、千葉を通して考えることは、通常考えられているのとは違った柳田を見いだすことになる。 民俗学はもともとロマン派文学的であり、それはドイツではナチズムにつながり、柳田の弟子たちもその影響を受けて「日民俗学」を作りあげた。柳田はそれを退けた。そして、そのような柳田の側面を受け継いだのが千葉である。二人には、共通する面がある。その一つは、彼らがいわば「理科」的であったことだ。千葉徳爾は自らを地理学者と呼び、民俗学者であることを否定した。柳田も自分の学問を民俗学と呼ぶのを拒み、「実験の史学」と呼んだ。この「実験」という言葉

    書評・最新書評 : 殺生と戦争の民俗学―柳田國男と千葉徳爾 [著]大塚英志 - 柄谷行人(哲学者) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 「本にだって雄と雌があります」書評 大法螺で包む書物愛と家族愛|好書好日

    にだって雄と雌があります [著]小田雅久仁 にも雄と雌がある。それが証拠に書架にを並べておくと知らぬ間に繁殖しているではないか。「書物がナニして子供をこしらえる」のである。この件に合意する読書家は多いはず。実際、は増える一方だ……と一定のリアリティーを感じつつニヤニヤ読める大法螺(ぼら)話。 相性のよいが隣り合わせたがために生まれた「子」を「幻書」と呼ぶ。放っておくと鳥のように羽ばたいて飛び去ってしまうので蔵書印を押して鎮めなければならないのだが、それはボルネオ島に住む空飛ぶ白象の牙から作られたものだ。かの島には古今東西すべてのが所蔵される「生者は行けぬ叡知(えいち)の殿堂」幻想図書館があるという。 そのような幻書の蒐集(しゅうしゅう)家、深井與次郎の生涯を、孫の博がさらに自子の恵太郎(つまり與次郎のひ孫)に語り聞かせるのが作の基的な構えだ。恵太郎はまだ幼いのに、なぜ曽祖父

    「本にだって雄と雌があります」書評 大法螺で包む書物愛と家族愛|好書好日
  • コラム別に読む : さらばアホノミクス [著]浜矩子 - 永江朗 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    貧困と格差を放置する経済政策 アベノミクスって効果があったのだろうか。少なくとも、ぼくが生息する出版界では微塵も感じられない。雑誌の売れ行きは低迷し、休刊も続いている。書店の身売り話や閉店も多い。 失業率は改善したそうだが、非正規雇用が増えただけだ。企業は儲けをたくわえ、給料に回さないから消費は冷え込んだまま。株価もいまいちだ。「新3の矢」なんて言い出したのは、「旧3の矢」が外れたからか。 浜矩子は官邸及びその応援団から忌み嫌われるエコノミスト。新著『さらばアホノミクス』でも、安倍政権の経済政策を徹底的にこき下ろす。なにしろ、もう「アホノミクス」とすら呼ぶに値しないと斬って捨てる。「~ノミクス」とつくのは経済政策だからであり、アベノミクスなんて経済政策ではないというのである。 このは「毎日新聞」連載の経済コラム「危機の真相」をまとめたものが中心。しかし、書のために語り下ろされた第

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  • コラム別に読む : ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由 [著]小林せかい - 勝見明(ジャーナリスト) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■合理的で、心が引き込まれる仕組み メニューは日替わり定1種だけ。店の手伝いをすると1無料になる「まかない」、無料の権利を他の客に譲る「ただめし」、店にある材でオーダーメイドできる「あつらえ」など、独自の仕組みで注目を集める「未来堂」。2015年9月に開業した著者がその「裏側」を明かす。 少女時代は偏。「おいしさの押し付け」に息苦しさを覚えた。15歳で初めて一人で喫茶店に入る。学校や家の枠にとらわれない「個」としての自分が受け入れられる解放された空間に衝撃を受け、将来、「お店を持つ」と決めた。 IT技術者を経て、東京・神保町で「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」として開業。「あつらえ」は一人ひとりの「おいしさ」を「ふつう」に受け入れる。「ただめし」を利用した人は次は自分が「まかない」へ。酒の持ち込み自由で半分は他の客にふるまう「さしいれ」は人から人へのつながりを広げる。目

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  • 「死すべき定め」「脳外科医マーシュの告白」書評 人生の終末描く、医療は文学|好書好日

    ISBN: 9784622079828 発売⽇: 2016/06/25 サイズ: 20cm/278,10p 死すべき定め―死にゆく人に何ができるか [著]アトゥール・ガワンデ 脳外科医マーシュの告白 [著]ヘンリー・マーシュ 医療は文学的なんだよと若い研修医がわたしにいった。十九歳の夏、脳下垂体腫瘍(しゅよう)の手術のため入院した病院でのことだ。手術時間も比較的短い良性腫瘍は重篤な患者さんたちの前では気楽なものに思えた。深夜緊急オペに駆けつける医師もいた。英文科一年生だったわたしは考えた。こんなに切実で具体的な実践の前で、文学なんてなに? 『死すべき定め』の著者アトゥール・ガワンデも、医学生の頃そう考えたのだろう。「患者と医師」という授業でトルストイの短編「イワン・イリイチの死」を読んだとき、診断がつかないまま治療を続け病状が悪化していく主人公の悩みに共感できなかったという。進んだ医学知識

    「死すべき定め」「脳外科医マーシュの告白」書評 人生の終末描く、医療は文学|好書好日