世界で一番短い手紙は、作品の売れ行きを心配した作家が送った「?」と、出版社の返事「!」だという。その作品が『レ・ミゼラブル』なのは、エスプリが効いてる。膨大な紙数を費やした大長編の評判が、ただの一文字で伝わってくるから。 ちくま文庫で全5巻、確かに長い。長いだけでなく、スタイルも手を変え品を替えてくる。随筆や論説、脚本のような体裁や詩や歌にまで様々だ。淡々とした書き口だったのが、ときに抒情的に翻り、さらに叙事詩的になり、なんでもやりたいことやってやれという熱情に満ち満ちている。 この情熱が、伝染する。ヴィクトール・ユゴーの輻射熱が、ヒリヒリするほど伝わってきて、一種はずみのようなものをつけて、一気に、滑空するように読める。子どものころ『ああ無情』でストーリーは知っていたものの、これほど作家自身が饒舌な作品とは知らなかった。ジャン・ヴァルジャンとコゼットの軸で物語は貫かれているものの、その背