<石井知章(いしいともあき):明治大学教授> 「わがヨーロッパの反動派が、すぐ目の前に迫っているアジアヘの逃亡のさい、ついに万里の長城にたどりつき極反動と極保守主義の堡に通じる門前にたったとき、門の上に次の文字をみないと誰が知ろう――中華共和国・自由、平等、友愛」(『マルクス・エンゲルス全集』、第7巻、223-224頁)。 はじめに 柄谷行人の『世界史の構造』(岩波書店、2010年)は、前著『トランス・クリティーク――カントとマルクス』(2001年)で最初に提出された「交換様式」の観点から社会構成体の歴史そのものを見直すという方法によって、現在の<資本=ネーション=国家>を超える展望を開くことを主な目的としていた。柄谷にとって、「マルクスをカントから読み、カントをマルクスから読む」という行為は、ヘーゲルをその前後に立つ二人を「批判的に」読むということを意味している。ここで柄谷は、マルクスの