すべからく、天才は類まれなる努力の結果、生まれるものだと思っている。天才が天才であるのは、あることが好きで好きでたまらず、その好きなことだったらどれだけ練習しても、勉強しても飽き足らずに、身体の一部になるまで反復しなければ気が済まない、そういう精神力を持っていることだろう。天才の伝記は、凡人にとっては神話のようだ。どれだけ奇矯な人間であっても、どこか神々しい。私が初めて知ったボビー・フィッシャーという天才チェスプレイヤーも、やはり怒れる神のような印象を持った。 私はチェスを知らない。さすがにこのゲームがどのようなものを使うかくらいは知っているが、ルールもシステムもまったくわからない。しかし将棋を知らなくても『真剣師小池重明』や『聖の青春』が面白かったように、マージャンの牌を握ったことがなくても『麻雀放浪記』を読みふけったように、五目並べしかできなくても『未完の対局』に心を奪われたように、こ