第一章:その存在が、そこに在ること 一九六〇年代の半ば、ロンドンの場違いな静寂の中に、その音は現れた。それまでのギターという楽器が背負わされてきた、甘美な旋律や、情熱的な和音、あるいは規則正しいリズムといった「約束事」が、一枚ずつ剥がれ落ちていくような音だった。 デレク・ベイリーがギターを手にしたとき、そこに流れていたのは音楽という名の調和ではなく、もっと即物的な、物質としての「弦」と「指」が衝突する摩擦音だった。 アンプから漏れるハムノイズ、予期せぬフィードバック、そして意図的に寸断された音の破片。 聴衆は戸惑い、隣り合う演奏者は次の展開を求めて視線を彷徨わせる。しかし彼は、それらに応えることはない。ただ、目の前にある一本の弦が、今この瞬間にどのような抵抗を見せるか。その一点のみに神経を集中させていた。 そこには既存の美学に対する反逆ですらなく、ただ「音そのもの」として存在しようとする、

