怪奇小説や怪談……人知を超えた妖しいものに、人はなぜか引かれ、文芸の領域にまで高めてきた。 お化けの季節でもある夏、西洋近代の名作アンソロジー『怪奇文学大山脈』(東京創元社、全3巻)の刊行を始めた作家・荒俣宏さん(67)、編集長を務める怪談専門誌「幽」(KADOKAWA、年2回刊)が創刊10周年を迎えた文芸評論家・東(ひがし)雅夫さん(56)の2人に「怪」を語る意味を聞いた。 日本文学の一つの底流 「怪奇文学大山脈」刊行 荒俣宏さん 西洋の怪奇小説の一群を「山脈」と銘打ったのには理由がある。海外の怪奇文学を数多く翻訳し、師と仰ぐ平井呈一(1902~76年)がエッセーの中で「恐怖山脈」という造語を使っていたからだ。自身も10代半ばだった頃、怪奇文学がそれほど光を浴びていない時代に、デパートのセールで安売りされていた『世界恐怖小説全集』(東京創元社)を手に取り、翻訳を担当した平井に手紙を書いた