私は、都立大学の修士課程のとき、非常勤で来られた青木先生の授業をうけた。最初の授業で印象的だったのは、自分の夢は、もし奈良時代に時空を超えて行くことができるとして、朝、起きて、官吏の着る服をきちんと着て、奈良の都の大内裏の門を入って役所まで疑われずに行くことだ。それだけの知識と感覚をもちたいと言われたことだった。すでにそのころ、『奈良の都』は読んでいたと思う。 『奈良の都』は中央公論社版の『日本の歴史』の一冊である。このシリーズは、戦争から解放されて学問をはじめた世代の歴史家が、戦後二〇年の成果を注ぎ込んだもので名著が多い。そのなかでも、この本は格が高いと思う。政治史が中心だが記述の筋は明瞭に通っていて、しかも文化史も社会史も基本的なことはすべて書いてある。 とくに青木さんは、この本を出してからちょうど一〇年後に、もう一冊、今度は小学館からでたシリーズ『日本の歴史』にも『古代豪族』という巻