若い頃なら、断然芥川を推したはずだった。 青蛙おのれもペンキぬりたてか 虚子はこの句を「大正の其角」と評する。ルナール『博物誌』の「青蜥蜴―ペンキ塗りたて御用心!」を転用した機知といい、「おのれも」という言葉の選択といい、怪奇趣味をただよわす彼の小説に笑いを加えたような独自の世界がある。華麗かつ、和漢の古典を踏まえた格調を残す彼の句は、「才気」に溢れている。 篠懸の花咲く下に珈琲店かな 冷眼に梨花見て轎を急がせし 日傘人見る砂文字の異花奇鳥 木枯や東京の日のありどころ 夏山やいくつ重なる夕明り また、医師がふき取りわすれた匙に残る少量の薬で身体が反応したほどの、尖った彼の神経は、俳句にあっても繊細な世界に目がいく。 労咳の頬美しさや冬帽子 向日葵や花油ぎる暑さかな 鉄條に似て蝶の舌暑さかな もの言はぬ研師の業や梅雨入空 客観写生一色の「ホ