柏木は重く患ったまま、新年を迎えます。悪い噂が立って宮も自分も苦しむより、また源氏に憎まれ続けるよりも、少しは惜しまれ、同情されつつ死んだ方がよいと、生きる気力を失っています。苦しいなかでも女三宮に文を書き、小侍従に託します。柏木が瀕死と聞いても、自身も体調の悪い女三宮は、源氏の手前もあり、もはや関わり合いになりたくないと冷たいものです。それでも責め立てて返事を書かせ、柏木に届けてやります。 柏木の父の太政大臣(源氏の旧友、昔の頭中将)は、さまざまな行者や僧を呼んで祈祷させます。女の霊がついている、などと陰陽師らが言い立てますが、馬鹿げたことです。柏木は祈祷の大声が嫌で病床を抜け出し、「女三宮の霊なら、ぜひ憑いてほしいくらいだ」と、こりもせず小侍従のもとで嘆くのです。 やがて女三宮に男児が生まれます。男は顔が人目に晒されるから、その父が柏木であることが知れてしまうのでは、と源氏は気を揉みま
![No.027 「柏木」あるいはイカルスの墜落 | 総合文学ウェブ情報誌 文学金魚 ― 小説・詩・批評・短歌・俳句・音楽・美術・骨董・古典・演劇・映画・TV](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/421020ae5f48cc6cf8aa318ac7dbd3f480434ddb/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fgold-fish-press.com%2Fwp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2014%2F07%2F94b1e67490f9340097a3ce7c5a887855.jpg)