昨年九月はじめ、私は本誌十月号に「拝啓 安倍晋三様」とはじまる一文を発表した。そこで安倍氏が二人の祖父のうち岸信介氏のみを継承し、安倍寛氏を無視していると指摘し、安倍氏の右翼的歴史観にもとづく政治活動を概観した上で、次の質問を呈した。 「第一は、安倍さんは、総理におなりになったら、村山談話を堅持すると誓約されますか。第二に、安倍さんは、総理におなりになったら、慰安婦問題での河野談話を堅持され、歴代総理が署名された慰安婦被害者に対する『お詫びの手紙』の精神を継承されますか。第三に、安倍さんは、総理におなりになったら、日朝平壌宣言を堅持されますか。」 そのときの私の気持ちは、巨大な反動の流れをこの三つの基本文書で押しとどめ、日本の国の立場を守りたいというのに近かった。『世界』のこの号が本屋に出たのは九月八日のであるが、その前日、総裁候補安倍氏は村山談話を踏襲するかと訊かれて、曖昧な答えをしてい