前に書いた「動物園の猿の子が、人になって生れてきた例がありますか」との関連で。まず最初に、以下に引用する文章は戦前、1932年(昭和7)に発表されていることをお断りしておこう。 今日のマルクス学説の流行は明かにダーウヰンの進化論により補助せられ、而〔しか〕して〔…〕科学といふことに一種の魔力を感ぜしめられて居る。多くの学者はダーウヰンの立てた進化論を無批判的に真理なりと考へて居る。嘗〔かつ〕て亜米利加〔アメリカ〕に於てダーウヰンの進化論を教へることを禁じた時に、日本の学者は、亜米利加のやうな文明国がそんなことをするのは、甚〔はなは〕だ不似なことだと述べて居つたのを記憶して居る。しかし亜米利加が進化論を禁止したことは、私の立場から言ふと尚〔なお〕当然のことゝ言はなければならぬ。何故ならば、簡単に進化説を信じて居る者から言ふと、我々の先祖は猿、或〔あるい〕は一種の猿のやうなものであつたといふこ