歴史家・石母田正の評伝を出した磯前順一・日文研教授=京都市 「中世的世界の形成」や「歴史と民族の発見」「日本の古代国家」など数々の著作を残し、独自の英雄時代論を展開した石母田。その思索の遍歴は常に時代の流れとともにあり、社会革命を追い求める「行動する歴史家」ゆえに、非情な現実に翻弄(ほんろう)され続けた。 「彼にとって、現実を不平等のない社会に変える、それがすべてだった」と磯前さん。「しかし彼は孤独だった。それが学問的成熟をもたらした」 挫折と敗北の洞察を理論にまで仕上げ(中略)彼は成長していった――。盟友、故・藤間生大(とうませいた)が弔辞でそう読んだように、石母田が理想と現実の乖離(かいり)に身をよじらせ苦悶(くもん)しつつも、それさえ自らの論理を磨き上げる糧としていったのは想像に難くない。 宗教や歴史が専門の磯前さんが石母田にふれたのは20歳のころ。国家論と神話論の鮮やかな結びつきに