あいかわらず伝統の問題が気になっている。 伝統への愛着と、しかし、伝統と呼ばれるようになった時にはすでに死んでいることへの悲しみ、そして、そんなアンビバレンツな気持ちを理解していない自称「伝統主義者」への怒りの三つが、私の伝統への思いの原動力になっているように思う。 久しく積読状態にしていた折口信夫を、わからないなりに読みつつある。「折口信夫全集 神道宗教篇」(中公文庫 ISBN:4122003644)を読んでいたら、折口信夫の気持ちが爆発しているような一節があった。 我々の学問の祖たちは、奈良の代の古歌の尊いことを、我々に説いてくれた。而も今日、其方々の歌集を見ると、二度びっくりである。ますらをぶりのたけびをあげられた賀茂翁すら、家持程度の澆李萬葉調である。趣味論一遍で文学を見られた本居翁などは、見ぐるしい両刀使ひである。其余の人々、皆頓才を以て、古語・死語を三十一文字に切りはめて居たば