先回取り上げた大和和紀『ヨコハマ物語』よりも少し後の時代、大正から終戦までの時代の女性の生き方を、万里子と卯野と同じく、性格は対照的だが仲のよい咲久子と卯乃という二人の少女の成長と絆を通じて描いたのが、市川ジュン『陽ひの末裔』である。 ◆『女工哀史』の時代 咲久子と卯乃の故郷は、東北の貧しい村。咲久子の家である陸りく中ちゅうの南なん部ぶ家は、旧家といわれる大地主だったが、4人の姉の嫁入り支度と株投資の失敗で身代が傾き、今ではほとんどの土地が失われてしまった。そのため、南部家の末娘の咲久子も、仲よしの卯乃とともに、東京の紡績会社の女工募集に応じることにする。 「いいとこ」に嫁いでいった姉たちも、しょせんは何の稼ぎもない“嫁ご”。それに対して「工場女おな子ごは、自分の腕でお金貯められるんだ」が咲久子の動機である。自分の力でお金を稼いで、かつての南部の土地をすべて買い戻す、というのが咲久子の野望