かつて小さな女子大で心理学を教えていた。1年目の授業は大惨敗。教科書通りにフロイトだのロジャースだのパブロフだのと話していたら,学生たちが次々と眠りに落ちていったのだ。言葉がブラックホールに吸い込まれていくみたいで,孤独だった。教師はつらいよ。 でも,わかる気もした。心理士になるとは限らず,養護教諭や看護師,あるいは一般就職も含めてさまざまな進路を考えている1年生たちに対して,「なぜ心理学を学ぶ必要があるのか」「心理学はなんの役に立つのか」をうまく伝えられていなかったからだ。それなのに,硬い知識だけを浴びせられても,そりゃつまらない。私だって寝てしまう。 だから,2年目の最初の授業は次のような話から始めた。それは水曜日の眠たい一限で,確か大雨が降っていた朝だった。 「おはようございます。ひどい雨ですね。僕は靴も靴下もビチャビチャで,最悪です。皆さんもそうじゃないですか。こういう朝,家族や友
![心のケアと「わかること」――雨の日の心理学(東畑開人) | 2023年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/8a4dff8a9e522297397c704998bf26eb76ca2858/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.igaku-shoin.co.jp%2Fpackages%2Figaku_shoin%2Fthemes%2Figaku_shoin%2Fassets%2Fimages%2Figakushoin_paper.png)