「いまの読者は、ほんとにバカなんですから」 以前よく一緒に仕事をさせていただいていた年長の編集者が、ある時期からそんなことを言いはじめた。ぼくが30代の前半だったころの話である。 いまの読者はバカだから、むずかしい話はわからない。いまの読者はバカだから、長い話は読んでくれない。いまの読者はバカだから、ひと見開きで完結する程度の情報しか求めていない。いまの読者はバカだから、図版やイラストを使わないとわかってくれない。彼はしきりにそんなことを訴え、実際そんな本を大量生産していった。そして言うのだ。「こういうバカ向けの本で数字を稼いで、年に1冊くらい自分がほんとうにつくりたい本をつくるんです」。 個々人がどんな編集方針を持っていようと構わないのだけど、ぼくに声がかかるのは決まって(彼が言うところの)バカ向けの本ばかりであり、ぼくは少しずつ彼から距離を置くようになった。 「わかりやすい本をつくる」