音楽家を志そうと決心した時に、私は人生の森に自ら迷い込んだ。 勤めていた高校教諭の職を辞し、退職金を当てにして、欧州音楽留学、そしてリスト音楽院大学院修了まで辿り着くことができた。しかしその頃までには、10年働いて貯めた留学資金を使い果たそうとしていた。 お金が無いので、もちろんこれから住む家も無い。4年間の留学生活で連れ添ったピアノも置く場所が無く、泣く泣く知人に譲った。残ったのは大量のオーケストラの楽譜達だけだった。 そんな時、ブダペストで日本食レストランと日本人ホステルを経営する峯田 慶治さん(通称よしさん)と出会う。よしさんの友人は彼のことを「Mr.お人好し」と呼ぶ。 よしさんは私に、三畳一間のホステルの一角と食料を提供してくださった。「住む所と食べることは心配するな、音楽にだけ集中しろ。」私はその言葉だけを信じて、人生を突き進んだ。 私は、1ヵ月後にハンガリーで行われる、Maes