評者:佐藤晋(二松学舎大学国際政治経済学部教授) 本書は、1950年代初頭から1972年の日中国交正常化に至るまでの、日本の中国政策の変遷を、国際環境の影響と国内政治とりわけ保守勢力内部の対立の影響を織り込みつつ、日本側特に外務省の政策構想を中心として叙述したものである。日米中台の政府資料を慫慂し、20年という比較的長いスパンの中で生じた日中関係の主要事件を、すべて一次資料によって描ききった力作である。それでは以下、具体的な論点を見ていく。 まず、著者が「中国問題」発生の起源となったとする日華平和条約交渉についての分析が行われる。これまで、吉田が北京と台北の等距離外交を意図していた、または当初から国府との講和を選択していたなどの解釈の対立があったが、著者は、吉田は再軍備への抵抗に比較すると「吉田書簡」にはほぼ抵抗していないこと、講和条約のアメリカ上院における批准を最重要視していたことなどか