芥川賞作家・市川沙央「難病・先天性ミオパチーがなかったら、小説家にはならなかった。滅多にない大金星で帳尻が合って」 重度障害者の生と欲望を描いたデビュー小説『ハンチバック』で芥川賞に輝いた市川沙央さん。主人公と同じ難病をかかえる彼女は、病気がなかったら小説家にだけはならなかったと明かします(イラスト:コーチはじめ) * * * * * * * この数年ほど、私は人探しをしていました。老母の元カレを探していたのです。父と結婚する前に付き合っていた、ほとんどソウルメイトのような恋人を振ったのは母です。私は幼い頃、戸棚にしまわれた缶の中に、結婚後届いた二通の手紙を見つけて読んだことがありました。いえ、こっそり読んだわけではなく母の解説付きで。 この方は母と別れたあと渡米し、とあるジャンルの草分け的な実業家として成功されたそうです。私の知る情報はそれだけ。それと、去年『ニューヨーク・タイムズ』に載