疑心の社会 足音が今 隣近所が互いを疑いの目で見るような「あの時代」には戻らない、と一体だれが言い切れるだろう--。「共謀罪」法案の国会審議が大詰めを迎える中、思い起こしたい出来事がある。戦時下の1940(昭和15)年、文学青年らが治安維持法違反を理由に逮捕された「神戸詩人事件」と「京大俳句事件」。作品の表現が時局に背くなどと問題視された。平穏な生活がたやすく崩れゆくことを物語る事件が今の社会に投げかけるものとは。【有本忠浩】 今月半ば、穏やかな日和だった。神戸市須磨区の坂の途上にある詩人、たかとう匡子(まさこ)さん(78)の家を訪ねた。玄関先でミカンの白い花が甘い香りを放っていた。