加藤久晴 「平ケ岳」(2140メートル)のショートカットルートに関する情報を最初に聞いたのは、奥秩父の山小屋だった。夕食後、ダルマストーブの脇でポケットウイスキーをちびちび飲んでいると、隣りの中年女性の3人グループの会話が耳に入って来た。 「平ヶ岳があんなに簡単に登れるとは思わなかったわね、登り3時間ですもんね」「あたしなんか平ヶ岳には一生登れないと思ってたわよ」「皇太子さまさまよ。皇族って山の中ではまだ偉いのね」3人の女性は、そこで、傍若無人に大声で笑いあった。"登り3時間"が耳に残った。 「平ヶ岳」への一般ルートは、鷹ノ巣から「台倉山」を経由するコース1一本で、確か登りに6時間を要したはずだ。下りが約4時間半とすると、往復10時間半となり、昼食時問や休憩などを入れると、日帰りでは難しくなる。池ノ岳あたりで幕営すればいいのだろうが、それではザックが重くなる。一度は登ってみたい