本書には、作者が法曹者を前に行った死刑をめぐる講演が収められている。あるときまで作者は、死刑に対して、「やむを得ない」という心持で消極的に存在を認める立場にいた。それがいくつかの出来事を契機に死刑廃止の立場に立つようになる。 死刑という現実には加害者と被害者とその遺族がいる。作者の小説『決壊』は被害者の眼となって描き出した作品だった。執筆に際しては「全国犯罪被害者の会(あすの会)」の集会にも参加した。そこで見聞したことは「どれも、痛烈に心に響いた」と語る。そうした経験を持つ作者が、死刑制度を認め得ないという地平に立つことになったのである。立場を変えたあとも作者は、被害者の悲痛と声にならない呻(うめ)きから目をそらさない。その上で、死刑を廃止するべきだという複数の理由を挙げる。