伊藤智彦監督、野崎まど脚本による『HELLO WORLD』は変わったSF映画だった。過去改変に挑む「タイムループもの」のようだが違う。男子高校生の主人公の前に10年後の成長した自分が現れるが、彼は未来からやってきたのではない。むしろ10年後の彼が現在であり、高校生の主人公は、彼が暮らす街も他者も含めて、全てが膨大なデータから精巧に作り出された「過去の再現」なのだ。本作のユニークさは、過去のデータに過ぎない存在が、現実の本人を超えて意思を持って行動し、その行動が現実の本人をも変えていく。過去のデータが現実を変えていくのだ。言うなればこれは「アーカイブもの」のSF映画だ。 本作はアーカイブを主題にした作品として画期的だと筆者は思う。アーカイブとは単純に過去を保存するだけではない、過去と出会い、未来を作るアクティブな行為なのだとこの物語は教えてくれる。 『HELLO WORLD』(c)2019「