知らぬ間に生活保護を受けていたために、後に膨大な医療費の支払いを求められた――。そんなトラブルの解決を求める訴訟が裁判所に持ち込まれた。東京地裁、東京高裁で言い渡された判決を読み解くと、手厚い日本の社会保障制度にも、隙間(すきま)を埋めるルールが十分に整備されていない現状が浮かび上がった。 東京都板橋区に住む男性は70代後半だった2013年9月、自宅マンションで熱中症になって救急搬送され、数カ月間、入院した。男性は認知症だった。年金収入があり、2000万円以上の預金もあったが、会話が成り立たず、医療費を支払うことができなかった。 困った区は10月、男性に生活保護を受けてもらうことにした。生活保護受給者の医療費は、本人に代わって自治体が全額を負担する仕組みになっている。こうすれば医療費の支払いが滞ることがなく、男性の場合も区が医療費を10割全額支払った。 男性には翌年3月、区の申し立てで司法