ズズズズズ……という、空気をふるわす重低音が上空にせまる。2023年12月28日、午前1時半——。パレスチナ・ヨルダン川西岸地区北部、ジェニン県中心部の街の一角に広がる難民キャンプは、そのときまさに、イスラエル軍による強襲を受けていた。 空気を震わす頭上のノイズは、夜空を漂う監視ドローン(無人機)が発するものだ。見上げても音の主は見えない。雲間からそそぐ月明りの静けさとは対照的に、数ブロック離れた路上からは散発的な銃撃音が響いていた。無人機はそうした戦闘の現場を追うように、近付いたり、離れたりを繰り返している。ドカン!——という、ひときわ空気を震わす衝撃はロケット弾だろうか。日中目にした、真っ黒に焦げた家々の姿が脳裏に浮かぶ。 この難民キャンプでは、「銃弾の痕のついていない通り」を探すことが困難なほどに、そこかしこに暴力が刻まれている。「難民キャンプ」とはいっても、数十年という避難生活の間