大規模な金融緩和を中心とした安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の指南役として、当時内閣官房参与を務めた浜田宏一米エール大学名誉教授(87)は本紙のインタビューで、10年に及ぶ政策の効果について「賃金が上がらなかったのは予想外。私は上がると漠然と思っていたし、安倍首相(当時)も同じだと思う」と証言した。大企業の収益改善を賃上げへとつなげる「トリクルダウン」を起こせなかったことを認めた。 (渥美龍太、原田晋也、畑間香織)
リーマンショック後、大胆な金融緩和を実施する米欧に対して、日銀が十分な金融緩和に踏み切らなかったことで、日本経済は大幅な円高に苦しめられることになった(写真:ロイター/アフロ) コロナ禍に伴う対応の結果、先進国で最悪水準にあった政府債務はさらに膨れあがっている。財務省の矢野康治財務次官が月刊誌への寄稿を通して政府債務の増大に警鐘を鳴らしているが、与野党ともに、給付金の支給や国債の増発を厭わない姿勢を見せており、名目GDPに占める政府債務残高はさらに悪化することが確実だ。 増え続ける政府債務と傷ついた経済の再生について、アベノミクスの立役者の一人であり、『21世紀の経済政策』を上梓した経済学者・浜田宏一氏に話を聞いた。(聞き手:長野 光、シード・プランニング研究員) ※記事の最後に浜田宏一さんのインタビュー動画が掲載されていますので是非ご覧下さい。 ──先日、財務省の矢野康治事務次官が「文芸
「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます。ただし、論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」 新聞、テレビ、ネットと各方面で話題を呼んだ「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」(「文藝春秋」11月号掲載)。 アベノミクスの提唱者として知られる浜田宏一氏(イェール大学名誉教授)は、「現役の財務事務次官である矢野さんが論文を発表したことは、立派だったと思います」と評価しながらも、論文の内容に関する評価は厳しい。 日本は「借金大国」なのか? 「第一に、『日本は世界最悪の財政赤字国である』という認識は事実ではありません。 矢野論文は、財政赤字の指標として、一般政府債務残高をGDPで割った数字が256.2%と先進各国の中でも突出して悪い
「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます。ただし、論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」 【写真】この記事の写真を見る(2枚) 新聞、テレビ、ネットと各方面で話題を呼んだ「 財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』 」(「文藝春秋」11月号掲載)。 アベノミクスの提唱者として知られる浜田宏一氏(イェール大学名誉教授)は、「現役の財務事務次官である矢野さんが論文を発表したことは、立派だったと思います」と評価しながらも、論文の内容に関する評価は厳しい。 「第一に、『日本は世界最悪の財政赤字国である』という認識は事実ではありません。 矢野論文は、財政赤字の指標として、一般政府債務残高をGDPで割った数字が256.2%と先進各国の中で
財務省は、東大法学部出身者の多い役所らしく理屈をこねるのが上手な官庁です。私も内閣官房参与として官邸に行った際、彼らが政治家をうまく説得するようすを見てきました。矢野さんは一橋大学の経済学部ご卒業のようですが、あの論文には、法律家集団である財務省の性格がよく出ていると感じました。 【画像】「MMT理論の根幹は正しい」 「ショッピングや外食や旅行をしたくてうずうずしている消費者が多い」(だから国民は給付金など求めていない)と書くのは、自分の結論に都合のよい人間像を証拠もなく作りあげているだけです。こういったところにいかにも財務省らしいところが出ています 経済は、理屈で勝っても、現実に合っていなければしようがない世界です。いくら政治家を説得できても、現実の経済が違ってしまったのでは話にならない。経済は、実際の人やモノの動きを事実として見つめる必要があり、ときに理屈では説明がつかない局面もある。
参院財政金融委員会で質問を聞く安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相(いずれも当時)=国会内で2019年3月20日、川田雅浩撮影 アベノミクスが登場するまでの日本の経済政策で一番問題だったのは、景気が良くなろうとすると日銀がすぐに金融引き締めに動いたことだ。その結果、円高で失業が増え 国民が苦しんだ。 2008年のリーマン・ショック後、諸外国の中央銀行は今までにない形で金融を緩和した。国際金融市場にドルやポンド、ユーロが大量に放出され、品薄になった円が高くなった。これによって日本の産業と国民が苦しんだが、財務省や日本銀行は「円が高すぎる」とは考えなかった。それを解消したのが安倍晋三元首相だ。 第2次安倍政権が始まった12年12月から、コロナ禍が始まる前の20年ごろまでに日本の雇用はおおよそ500万人増えた。1990年代以降の首相でこれほど新たな雇用を創出したのは初めてのことだ。具体的に
アベノミクスのブレーンとして知られる経済学者の浜田宏一氏。その活躍の裏側で長らく躁うつ病に苦しんできた。さらに回復の途上、実の息子を自死で亡くす。人生とは何か? ともにアメリカで活躍するハーバード大学医学部准教授で小児精神科医の内田舞氏を聞き手に、その波乱に満ちた半生を語る。7月19日に発売になった『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)から、精神医学と経済学の相似性について語られた箇所から一部抜粋してお届けします。(全4回の4回目/最初から読む) ◆◆◆ アベノミクスが実現したこと、やり残したこと 浜田 さて、戦後の歴史を見ると、円安だった時期のほうが日本経済は生き生きとしていた。円安でエズラ・ヴォ―ゲルから「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とおそらく揶揄をも含めて言われていた日本の成長経路は、日本の貿易相手、欧米の産業にとってはハンディがきつすぎたと思います。そこで円高を是正し
<トランプの今までの常套手段は、単なるでっち上げや脅しだ――。進歩に対する抵抗を克服し、2024年のトランプ再当選を防ぐために必要なこととは> (本誌「トランプは終わらない」特集より) 昨年11月のアメリカ大統領選勝利演説でジョー・バイデン次期大統領は、党派を超えて共和党員と協力し国論を統一すると約束した。 それから2カ月後、ドナルド・トランプ大統領は退陣を認めず、支持する共和党議員の一部は先週、選挙人投票の集計に反対する手はずになっていた。その後に連邦議会議事堂を占拠した暴徒の振る舞いは、世界に報道された。 一連の出来事はアメリカがいかに二極化しているかを示している。世論の亀裂がアメリカの民主主義に空前絶後の脅威をもたらしているのである。 大統領選以来、トランプと彼の共和党の同志らは、選挙結果に異議を唱えて60以上の訴訟を起こしてきた。しかし、トランプが保守派の判事で埋めた最高裁でさえ、
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で経済の不透明感が強まり、株式などの金融市場も乱高下が続く。9日には世界同時株安の様相になり、日経平均株価は2万円台を割り、1ドル=101円台まで円高が進み、リーマンショック級の打撃を懸念する声も出始めた。日本経済も昨年10~12月期に続き、今年1~3月期もマイナス成長が見込まれる。ニューヨーク市場ではダウの下げ幅が一時、2000億ドルを超え、一時は取引が停止された。危機の深度はどの程度なのか。マクロ政策でやれることは何なのか。アベノミクスの指南役である内閣官房参与の浜田宏一・エール大名誉教授に緊急にインタビューをした。(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之) 金融市場に波及した“コロナショック” 専門家を結集し短期の回復目指せ ――コロナウイルス問題の影響は、生産や消費だけでなく欧米金融市場にも広がりました。9日も日本の株式市場に続いて、ニューヨー
<月刊文藝春秋11月号に掲載された矢野康治・財務事務次官の論文「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」への反論を、米エール大学名誉教授で元内閣参与の浜田宏一氏が寄稿した> 財務省の矢野康治事務次官が日本の財政事情を憂い、「このままでは国家財政は破綻する」という論文を『文藝春秋』11月号に発表した。官僚のいわばトップの位置にある者が、財政の基本問題について率直な意見を表明したことで注目を集めている。同論文は「人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む」と、新型コロナ禍で緩くなった財政措置をいさめ、その理由として、 (1)日本政府の財政赤字、債務超過は世界でずば抜けて悪い。 (2)このままでは日本の財政は破滅する。タイタニック号が氷山に近づいているのを皆気づいていない。 ということを諄々(じゅんじゅん)と説いている。 しかし内容についてみると、矢野氏の論文の暗黙の前提条件と経済メカ
中国・武漢発の新型コロナウイルスのショックは、金融市場で2008年9月に起きた、リーマン・ショック級の衝撃を与えている。日本は経済政策をどうすべきか。米国在住の内閣官房参与、浜田宏一エール大学名誉教授は、消費税の大型減税について、「2年間程度、増税を撤回してよい」との考えを示した。主なやり取りは次の通り。(聞き手 編集委員・田村秀男) 田村 とうとう米国もトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。日本ではマスクもティッシュペーパーも品切れで、日常生活もままならなくなるという不安が起きていますが、浜田先生のお宅のある米国東部はいかがですか。 浜田 スーパーに行っても長蛇の行列、それでも品切れになって入手できない(苦笑)。 田村 新型コロナショックは、人とモノの動きを止める不安から、金融市場を動揺させています。リーマン級を超える打撃を日本経済に与えかねません。金融政策だけでは対応し切れないと
<月刊文藝春秋11月号に掲載された矢野康治・財務事務次官の論文「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」への反論を、米エール大学名誉教授で元内閣参与の浜田宏一氏が寄稿した> 財務省の矢野康治事務次官が日本の財政事情を憂い、「このままでは国家財政は破綻する」という論文を『文藝春秋』11月号に発表した。官僚のいわばトップの位置にある者が、財政の基本問題について率直な意見を表明したことで注目を集めている。同論文は「人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む」と、新型コロナ禍で緩くなった財政措置をいさめ、その理由として、 (1)日本政府の財政赤字、債務超過は世界でずば抜けて悪い。 (2)このままでは日本の財政は破滅する。タイタニック号が氷山に近づいているのを皆気づいていない。 ということを諄々(じゅんじゅん)と説いている。 しかし内容についてみると、矢野氏の論文の暗黙の前提条件と経済メカ
<円高でなく、円安の時にこそ日本経済は成長してきた。日銀は自国の物価や景気を見極めて行動すべきだ> 円安や円高は、国民生活にさまざまな影響を及ぼす。円高は輸入品を安くし海外旅行を容易にする。円安気味の現在、友人がボストン郊外に孫を訪ねた際に妻がけがをし、その手術が300万円もかかったが、これは円安の被害である。 これと逆に、円高気味の時には日本への旅行客が減って観光業は多大の被害を受ける。輸出産業は円高の際に製品が売れなくなり、輸入品と競争製品を作っている産業も同様に被害を受ける。このように各国民にとって為替レートの変動は時に正反対の影響を及ぼす。 円高にすぎるか、円安にすぎるかの論争で感ずるのは、何が正常な、あるいは望ましい為替レートであるかの議論なしに、過去いつの時点より円安だから、あるいは円高になったから、という議論が多いことである。円安、円高の望ましさを議論する際には、国民経済全体
浜田宏一氏による「国の借金はまだまだできる」の一部を公開します。(月刊「文藝春秋」2021年12月号より) ◆◆◆ 財務省は、東大法学部出身者の多い役所らしく理屈をこねるのが上手な官庁です。私も内閣官房参与として官邸に行った際、彼らが政治家をうまく説得するようすを見てきました。矢野さんは一橋大学の経済学部ご卒業のようですが、あの論文には、法律家集団である財務省の性格がよく出ていると感じました。 「ショッピングや外食や旅行をしたくてうずうずしている消費者が多い」(だから国民は給付金など求めていない)と書くのは、自分の結論に都合のよい人間像を証拠もなく作りあげているだけです。こういったところにいかにも財務省らしいところが出ています 日本は『世界最悪の財政赤字国』ではない 経済は、理屈で勝っても、現実に合っていなければしようがない世界です。いくら政治家を説得できても、現実の経済が違ってしまったの
浜田宏一氏 ステファニー・ケルトン米ニューヨーク州立大教授を迎えたMMT(現代貨幣理論)の研究会で疑義を述べた浜田宏一・内閣官房参与に真意を聞いた。 (聞き手=黒崎亜弓) ―― MMTをどう評価するか。 浜田 財政赤字にそれほど目くじらを立てることはなく、国民生活が良くなるのならば財政支出はプラスだという議論に注目を集めた点では、MMTは社会に対して貢献している。 一方で、MMTの問題点は、放っておくとインフレになる危険があることだ。序盤と中盤では、ゼロ金利のもとで中央銀行は“政府のしもべ”として財政支出に対して貨幣を供給していればいいかもしれない。ただ、どこかで物価上昇に対する人々の期待ががらっと変わって、これからインフレになると思い始める。日本銀行の役割を抹殺しようとする点では極端な議論だ。 インフレ抑える日銀売りオペ ―― インフレ期待が急に変わる時にどう対処するのかは、これまで金融
成果があったアベノミクス継続を 日夜休日も返上して新型コロナウイルスと立ち向かっていた安倍晋三氏が、最長の首相任期を務めた後、健康上の理由で退任した。安倍前首相には一日も早いご全快をお祈りしたい。 新任の菅義偉首相は、秋田県出身、横浜市会議員から自力で地盤を築き上げてきた政治家である。自民党のどの派閥にも属していない点でもユニークな存在である。 安倍前首相が祖父の岸信介元首相の流れをくむ、いわば政界のプリンスといってよい存在なのに対し、菅新首相は社会を庶民の目から見ることのできる首相である。社会のどこを直せばより能率的な社会になり、どこを直せばより公平な社会になるかを判断する目があると想像できる。派閥の個別利害にとらわれずに済むことは、改革に対する政治的な抵抗をかわすのにも有利であろう。 しかも首相のアドバイザーには、従来の製造大企業や銀行からだけではなく、今や業界の多数を占めるサービス業
浜田先生の新しい論説。twitterに要旨まとめたのこちらにもまとめて掲載。 浜田宏一先生の最新論説「新型コロナウィルスへの財政的戦い」 https://www.project-syndicate.org/commentary/governments-must-use-fiscal-policy-to-tackle-coronavirus-by-koichi-hamada-2020-03 極めて適切な内容です MMTについて、サムエルソン、ブランシャールら主流派の経済学と対比している。MMTに特権的な地位は否定。また財政健全化にこだわる日本経済を論じた海外ジャーナリストや伊藤元重論説を批判。 浜田宏一論説内容紹介)新型コロナウィルスへの対策は、金融政策は効果の点で回り道。中国は金融緩和政策はすでに採用。今は日本もその他の国も財政政策の方が、直接に感染症対策や自然災害などに影響を及ぼす。財政
1936年生まれ。2012年から20年まで、安倍晋三内閣の内閣官房参与を務めた。エール大学名誉教授、東京大学名誉教授。著書に「アメリカは日本経済の復活を知っている」(講談社)、「エール大学の書斎から 経済学者の日米体験比較」(NTT出版)など多数。 ■「なぜ経済政策を誤るのか」答えをさがして ――浜田さんの著書「21世紀の経済政策」は600ページを超える大著となりました。しかも、世界と日本の政策当局者、経済学者、経済評論家、政策アドバイザーなど総勢89人に直接インタビューし、議論したものを構成したものです。ジャーナリストが手がけるならともかく、一線の学者である浜田さんが直接聞き取りしたことに驚きました。膨大な作業ですが、動機は何だったですか? 本をまとめるに至った、いちばん初めの問いは「政府が経済政策を誤るのは、政策担当者が個人や組織の利害にこだわるためか? それとも、経済論理に無知である
<インフラ整備や教育拡充のための赤字支出は未来世代にツケを残すことにはならない> ジョー・バイデン米大統領の看板政策とも言うべき大型歳出法案BBB(ビルド・バック・ベター/より良い再建)は昨年末、民主党の身内であるジョー・マンチン上院議員が反対を表明したことで事実上頓挫した。マンチンが反対理由に挙げたのはアメリカが抱える「膨大な債務」だ。反対勢力の共和党もそれを問題にしている。大盤振る舞いで財政赤字が膨れ上がれば、未来世代が重い税負担にあえぐことになる、というのだ。 本当にそうなのか。現代貨幣理論(MMT)の信奉者は躍起になって否定するだろう。 BBB法案反対派は伝統的な均衡財政論を信じ、政府も民間企業のように収支の帳尻を合わせなければならないと主張する。だがMMTによれば、債務が自国通貨建てであれば、政府がデフォルト(債務不履行)に陥る心配はない。確かに過剰な政府支出はインフレを招くが、
10日に発足した第2次岸田文雄内閣にとって喫緊の課題は何かと言えば、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ経済の立て直しだろう。その岸田首相、先の自民党総裁選ではアベノミクスに象徴される「新自由主義からの転換」を掲げ、注目を浴びたばかりである。その後はトーンダウンしているとはいえ、安倍晋三元首相の経済ブレーンだった元内閣官房参与の浜田宏一さん(85)には、やはり思うところがあるようだ。 「アベノミクスは大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略の『三本の矢』でデフレ脱却を目指した。つまり、いかなる方法で目標を達成するかという道筋が明確だった。岸田首相は『新しい資本主義で成長と分配の好循環を目指す』とおっしゃっている。もちろん、それは理想です。しかし、単に『アベノミクスと違う』と言うだけでなく、『こういう政策で成長も分配も満足させる』と具体的に言ってもらわないと説得力がない」。米東部時間午後8時す
浜田 舞さんのお母さまの千代子ドクターとは友達でありながら、同時に千代子先生に精神科医としてアドバイスを仰ぎ、様々な面で助けてもらいました。イェール大学の入院生活を終えた後もうつが続き、どうしても母国語の日本語でないと本心が語れないと感じていた1987年頃に、ちょうど舞さんとご両親がニューヘイブンに越してきて、経済学部の研究員に日本人の精神科医である千代子先生を紹介してもらいました。 千代子先生は当時イェール大学の客員研究員として臨床を勉強されていたので診察を受けることはできなかったのですが、たくさんの相談に乗ってもらったのです。その後もアメリカに主治医がいるものの、少し長めに日本に帰国する機会があったときには、千代子先生に日本の精神科の主治医として診ていただいた。「うつは患者のエネルギーが回復する治りかけが最も自殺のリスクが高く、危ないから油断してはならない」ということを適切な時に言って
リーマン後の円高は日銀の失敗だった 2008年から09年にかけて、世界経済は未曽有の金融危機、リーマン危機に襲われた。米英で多くの人々がサブプライム・ローンで持ち家を買えるようになったのはよかったが、返済困難も増えて住宅ローン債権の流動化を目的として証券化されたサブプライム・モーゲージの価格が急落し不良債権化、リーマン・ブラザーズ社は破産するに至る。 米国連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行等は、なりふり構わず抵当証券を通貨で買い取ることでこの危機を乗り切ろうとした。このことはとりもなおさず、米英の中央銀行は大幅の通貨供給を「量的拡大政策」として行ったことになる。 さて、日本ではサブプライム・モーゲージはなく、金融市場は平常通り機能していた。したがって、リーマン危機は日本経済にとって「蜂に刺されたようなもの」という、当時の与謝野馨経済財政担当相の言葉も違和感なく受け止められたので
アベノミクスの主柱である異次元金融緩和政策を展開した黒田東彦日銀総裁が間もなく任期を終え、経済学者の植田和男氏が総裁に就任する。この機をとらえ、「反安倍」色の強い一般紙から、金融界の利害を重視する経済メディアにいたるまで、異次元金融緩和たたきが横行する。いずれも増税と緊縮財政に固執する財務省や、超円高を容認した白川方明前日銀総裁の側に立ち、日本経済の25年間もの慢性デフレをずるずると続けさせかねない。 脱デフレの論陣を張ってきた筆者はそこで、アベノミクスの指南役を務めた浜田宏一米エール大学名誉教授と対談し、警鐘を鳴らすことにした。対談のあらましは26日付産経新聞朝刊「日曜経済講座」で紹介したが、重点は「植田日銀」の政策見通しだった。本欄では雇用、円相場に焦点を合わせている。
アベノミクス 継承に値するのか 憲政史上最長の約 7年8カ月続いた安倍政権の終幕で「アベノミクス」も区切りとなった。異次元金融緩和を中心とした「三本の矢」による“異形の経済政策”が残したものは何だったのか。円安・株高などで戦後2番目に長い好況を実現したが、期間中の実質成長率は1.1%と景気拡大局面としては過去最低だ。格差拡大や長い金融緩和による金融仲介機能の低下などの「負の遺産」も指摘されている。生産性向上などの地道で息の長い経済の構造改革よりはマクロ政策で需要をかさ上げすることが優先された結果だ。菅新政権は「アベノミクスの継承」を掲げるが、まずはその功罪を検証することが必要だろう。雇用は本当に改善したのか、成長の果実が広く行き渡るトリクルダウンは起きたのか――。本特集では、政治の思惑や民主党政権の“官僚排除“への反発から始まったアベノミクスの源流を示すともに、「首相+首相側近」主導による
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