ひとつの翻訳が、終わった。 1本の翻訳原稿を仕上げた、わけではない。 この世界に存在していた翻訳のひとつが いま終焉を迎えたのだ。 2024年末現在、僕の手元にきている来年の依頼は0件。 2025年の収入見込みも畢竟、0円ということになる。 あくまでもひとつの翻訳の話である。 つまりは翻訳のひとつの話である。 関係ないと思うならこの先を読まなくてもいい。 自分の知る現実と違うならこの先を信じなくてもいい。 人間の数だけ人間があり 現実の数だけ現実がある。 そのような場所を あるいはそのとらえ難さをこそ 人は「世界」と呼ぶのだから。 そうしてその「世界」の中で ひとつの翻訳が終わった。 じつに翻訳のひとつとして 文字通り終わってしまった。 もっとも、収入の見込みが完全に断たれた経験はこれが初めてではない。 わずか数ヶ月前まで遥かな対岸でちらちらと燃えていたはずの疫禍がその存外長い舌を露わにし